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真珠のボタン

The Pearl Button
El botón de nácar

- フランス、チリ、スペイン/2015/スペイン語/カラー、モノクロ/DCP/82分

監督、脚本、編集:パトリシオ・グスマン
撮影:カテル・ジアン
編集:エマニュエル・ジョリー
写真:パス・エラスリス、マルティン・グシンデ
プロデューサー:レナート・サッチス
製作会社:ATACAMA Productions
配給:Pyramide International
配給、宣伝(日本国内):有限会社アップリンク www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/

チリ南部に位置する西パタゴニアには、かつて水と星を生命の象徴として崇めた先住民が住んでいた。そこで発見された真珠のボタンが、植民者による先住民大量虐殺と、ピノチェト独裁政権下で命を奪われ、海に投棄された犠牲者たちの歴史をつなぐ。海洋と天空に流れる悠久の時間に対峙するような圧倒的な映像美と、グスマン監督のたおやかな語り口が、水に沈む記憶と数々の声を想起させる。



【監督のことば】西パタゴニアは世界最大級の群島だ。チリ南部に位置するここには、無数の島や小島、岩礁、峡湾(フィヨルド)が存在する。海岸線は、およそ7万4000キロもあり、人が足を踏み入れたことのない場所さえある。南アメリカ大陸のはるか南を含む、ペナス湾からスタテン島(南アメリカ最南部の場所)までの広大な“海の迷宮”は、人類がもともと海に住んでいたことを思い起こさせる。ドイツ人科学者のテオドール・シュベンクによれば、人間の内耳は渦巻き状の巻貝のようであり、心臓は2本の海流の合流地点であり、我々の体の骨のいくつかは、渦巻きのような螺旋状になっているという。

 水は地球生物だけのものではない。太陽系に存在する共通要素のひとつである。木星や土星など、いくつかの惑星では水蒸気の痕跡が確認されており、火星や月、エウロパ(木星の衛星のひとつ)、タイタン(土星の第6衛星)では氷が見つかっている。また太陽系外の天体にも、多くの水が存在する。2010年、チリのラ・シヤ天文台が、地球から20光年離れた天秤座にある「グリーゼ581」のいくつかの衛星に水があることを発見した。現在では、パタゴニアのような群島が存在する可能性を否定することはできない。

 この地域についての映画を撮ることになり、同時にこの地の住民の歴史をカメラに収めようという気持ちになった。シュベンクの言葉に「考えるという行為は、すべてのものに適応するという水の能力に似ている。人間の思考の原理は水と同じだ。あらかじめ、あらゆるものに順応できるように作られている」というものがある。

 おそらくこのことが、孤立状態と極地の気温の下、人類の一部族がこの地に一万年も住み続けてきた理由だろう。それも風速55メートルという強風が吹く中で、である。18世紀には8000人が暮らしていたと言われているが、現在でも20人の住民がここで生活している。


- パトリシオ・グスマン

1941年、チリのサンティアゴ生まれ。マドリードの国立映画学校でドキュメンタリー映画を専門に学ぶ。1973年、軍事クーデターでサルバドール・アジェンデ政権が倒れた後、サンティアゴの国立競技場の独房に監禁され、処刑される恐怖を味わう。同年11月にチリを後にした彼は、キューバ、スペイン、そして現在も暮らすフランスへと移り住んだ。監督した6本の作品――『チリの闘い ― 武器なき民の闘争』3部作、『Le cas Pinochet』、『Salvador Allende』、『光のノスタルジア』(YIDFF 2011 山形市長賞)――は、カンヌ国際映画祭でプレミア上映された。『光のノスタルジア』は2010年ヨーロッパ映画賞・最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。サンティアゴ・ドキュメンタリー映画祭の創設者であり、近年はブリティッシュ・フィルム・インスティテュートとハーバード映画アーカイヴで回顧上映が行われている。2013年、グスマンはハリウッド・アカデミー協会の会員に招かれた。