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第1部:パレスティナ革命とミリタント映画



60年代末に始まる世界的な革命運動/闘争のなかで、世界の映画人が、イギリス統治下の30年代にまで遡るパレスティナ革命に共鳴して制作した「ミリタント映画」(1970〜80年代制作)8本、またのちにその時代を考察した作品(1990年〜2010年代)2本を上映する。


-ファタハ:パレスティナ

Fatah: Palestine

イタリア/1970/イタリア語/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:16mm)/80分

監督、撮影:ルイジ・ペレッリ
編集:クレオフェ・コンヴェルシ
脚本:ロマノ・レッダ
ヴォイスオーバー:リカルド・クッチオッラ、 サンドラ・ダル・サッソ、アンナ・マリア・ゲラルディ、ニコ・リエンツィ、ステファノ・サッタ・フロレス
音楽:ヴィットリオ・ジェルメッティ
製作会社:Unitelefilm
協力:Archivio Audiovisivo del Movimento Operaio e Democratico

パレスティナ革命と武装闘争の起源を辿るテレビドキュメンタリー。パレスティナ民族解放運動(ファタハ)がパレスティナ解放機構(PLO)に加入した1967〜70年頃の難民キャンプの暮らしを描きつつ、革命分子によってパレスティナ難民のなかで民衆運動が喚起されていく様子が描かれる。武装闘争に政治戦略的、倫理的な根拠を与え、その正当性を訴える。



-赤軍 ― P.F.L.P.・世界戦争宣言

The Red Army / PFLP: Declaration of World War

日本/1971/日本語/カラー/デジタル・ファイル(原版:16mm)/71分

監督:足立正生
編集:赤軍(共産主義者同盟赤軍派)、PFLP(パレスティナ解放人民戦線)
制作:若松プロダクション

足立正生が若松孝二とともに制作した、世界革命運動のための「ニュースフィルム」。赤軍による日航機ハイジャックやPFLPによるパンナム機爆破の映像、パレスティナ闘士の訓練風景と「革命的人民」に向けたメッセージの往還、その間に字幕によるスローガンが散りばめられ、抑圧された人民解放に向けた武力闘争を説くプロパガンダが前衛的手法で展開される。劇場公開はせず、全国の大学や工場などで上映運動が行われた。

*本作上映後、足立正生監督と『オフ・フレーム/勝利まで』のムハンナド・ヤークービ監督によるトークあり。



-100通りの1日

One Hundred Faces for a Single Day

レバノン/1971/フランス語、アラビア語/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:16mm)/65分

監督:クリスティヤーン・カージー
脚本:クリスティヤーン・カージー、ラフィーク・ハジャル
撮影:ユーセフ・アンタル
編集:カイス・ズバイディー
出演:ムナー・ワーセフ、フダー・ラーミ、リモーン・ジュバーラ、サラーフッディーン・ムハッララーティー、ミシュリーン・ダウ、ナディーム・スレイマーン

土地を追われたパレスティナ人の苦しい暮らしを背景に民族解放闘争に身を投じる若者たちと、ブルジョワの厭世的日常を前衛的手法で描く。制作当時、観客に伝わりにくい表現手法が民族解放運動を損なっているのではないかと批判され、お蔵入りになった。近年、実験的政治映画として再び注目されている。



-勝利まで/われらパレスティナ人

Revolution until Victory aka We Are the Palestinian People

アメリカ/1973/英語/モノクロ/ デジタル・ファイル(原版:16mm)/52分

監督:パシフィック・ニューズリール

70年代にパレスティナをテーマにしたアメリカで唯一の毛沢東主義映画とされている。全編がドキュメンタリーやニュース映像、アーカイヴ映像のフッテージで構成された作品。マルクス・レーニン主義的解釈で、シオニズムによる植民地支配とパレスティナの抵抗の歴史を全米に向けて訴える。シオニズムとホロコーストの関係について言及した数少ない作品でもある。



-クフル・シューバ

Kufur Shuba

イラク、レバノン/1975/アラビア語/モノクロ/16mm/36分

監督、編集:サミール・ニムル
撮影:ムティーウ・イブラーヒーム、ウマル・アル=ムフタール、サミール・ニムル
録音:リヤード・アブダッラー
配給:Palestinian Cinema Institute

1972年、イスラエルがレバノン南部のクフル・シューバに侵攻するも、パレスティナ解放運動闘士の抵抗により撤退した。1974年、国連総会でPLO(パレスティナ解放機構)は正式なパレスティナ代表として認められた。PLO議長・アラファトの国連での演説を挟みつつ、闘士(フェダイー)のインタビュー、イスラエルの占領に抗議する学生デモのショットなどで構成され、パレスティナ解放運動の正当性が謳われる。



-オリーブ

L'Olivier

フランス/1976/フランス語、英語、アラビア語、ヘブライ語/カラー、モノクロ/デジタル・ファイル(原版:16mm)/83分

監督:グループ・シネマ・ヴァンセンヌ(アリー・アキーカ、ギー・シャプリ、ダニエル・ドゥブルー、セルジュ・ル・ペロン、ジャン・ナルボニ、ドミニク・ヴィラン)
ミキシング:ミシェル・コモ
資料:Visnews, Newsreel, ORTF, Cinémathèque Palestinienne
構成:ムスタファ・アル=クルド

1972年のミュンヘン事件を機にパレスティナに対する公的支援が消えつつあるなかで、現状に対する懸念の表明として制作された。住む地を失ったパレスティナ人の物語を時系列で並べつつ、パレスティナ解放闘争を説くという構成スタイルは、世界の革命闘士の連帯、特にヨーロッパにおける政治的関心を喚起するためのものである。



-ヒア&ゼア こことよそ

Here and Elsewhere
Ici et ailleurs

フランス/1976/フランス語、アラビア語、ドイツ語/カラー/Blu-ray/55分

監督:ジャン=リュック・ゴダール、アンヌ=マリー・ミエヴィル、ジャン=ピエール・ゴラン(1970年のオリジナル・フッテージ)
撮影:ウィリアム・リュプシャンスキー、 アルモン・マルコ(1970年のオリジナル・フッテージ)
編集:アンヌ=マリー・ミエヴィル
音楽:ジャン・シュワルツ
製作:ジャン=リュック・ゴダール、アンヌ=マリー・ミエヴィル、ジャン=ピエール・ラッサーム
製作会社:Gaumont, Sonimage, Institut National de l'Audiovisuel

1970年にジガ・ヴェルトフ集団として制作したパレスティナの革命闘争に関する未完のフッテージを使い、ゴダールとミエヴィルが1976年に完成させた。パレスティナ革命が進行する1970年の「ここ」と、フランスの家族がリビングでテレビをみつめる1975年の「よそ」で構成される。音と画(イマージュ)を等置し、繰り返し提示することで、「そこに提示された音/画」と「それが意味するもの」のずれを再考する映画的思索。



-第5の戦争

The Fifth War

ドイツ、イラク/1980/英語/カラー/デジタル・ファイル(原版:16mm)/65分

監督:モニカ・マウラー、サミール・ニムル
撮影:タウフィーク・ムーサ、サミール・ニムル、エドワード・アル・カッシュ、ムハンマド・アワド
編集:マウロ・コンティーニ
録音:フセイン・ユーネス、シャーヒル・スーミー
音楽:フセイン・M・ナーゼク
ミキシング:ファウスト・アンチライ
出演:ヴァネッサ・レッドグレイヴ
製作:Palestinian Cinema Institute, Samed for Cinema Production
協力:Archivio Audiovisivo del Movimento Operaio e Democratico

1978年、PLOの拠点を一掃するためにイスラエルがレバノン南部を襲撃した「リタニ作戦」を詳細に描いた作品。俳優のヴァネッサ・レッドグレイヴの案内で、帝国主義がパレスティナをいかに蹂躙して戦争を引き起こし、抵抗を生む結果となったかが語られる。戦地に肉薄した映像は他に類を見ないが、撮影中にカメラマン二人が亡くなっている。



- シャティーラのジュネ

Genet in Shatilah
Genet à Chatilah

スイス/1999/フランス語、アラビア語、英語/カラー/DVD(原版:35mm)/98分

監督、エグゼクティブ・プロデューサー:リヒャルト・ディンド
撮影:ネッド・バージェス
編集:リヒャルト・ディンド、レイナー・M・トリンクラー、ゲオルグ・ジャネット
録音、ミキシング:アンリ・マイコフ、ロベルト・チェスキ
楽曲:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
アシスタント:サビーヌ・シーダーウィ・ハムダン
製作:ロベルト・ボーナー、リシャール・クパン
出演:ムニヤ・ラーウィー、レイラ・シャヒード
製作会社:Lea Produktion GmbH, Les Films d'Ici

フランスの作家ジャン・ジュネとパレスティナ革命との関わりについて描いた作品。1982年9月、ベイルートのシャティーラ難民キャンプで虐殺が起こった直後、ジュネはその地を訪れた。その後、ジュネはそこでの経験をルポルタージュ『シャティーラの四時間』(1983)に著し、癌に苦しみながらパレスティナについて思考し、遺作『恋する虜』(1986)を結実させた。本作は、『シャティーラの四時間』と『恋する虜』からの引用を元に、主演のムニヤ・ラーウィーがジュネの晩年の足跡を辿る。英語版の朗読は、アメリカの映画作家ロバート・クレイマーが務める。



-オフ・フレーム/勝利まで

Off Frame aka Revolution until Victory

パレスティナ、フランス、カタール、レバノン/2016/アラビア語、英語、フランス語、イタリア語/カラー、モノクロ/デジタル・ファイル/62分

監督:ムハンナド・ヤークービ
脚本:リーム・シッレ、ムハンナド・ヤークービ
撮影:サーミ・サイード、ラーミ・ニーハーウィー、サーラ・シー
編集:デイヴィッド・オーシット、ラムズィー・ハズブーン
録音:サーミ・サイード、ラーミ・ニハーウィー、アンドレイ・バークー
整音:ペトル・シポス
音響、ミキシング:カール・スヴェンソン
製作:サーミ・サイード、ムハンナド・ヤークービ
製作会社、提供:Idioms Film

1960〜70年代、PLOによるパレスティナ・フィルム・ユニット設立と共に、パレスティナの困難が様々な形で映画に描かれた。本作は、その自己イメージについての考察である。前例のない調査によって発掘、保存されたフィルムを使い、現代パレスティナの描写から遡ってミリタント映画の語り口と映像を辿る。忘れられた苦しみの記憶を拾い集めることで、フレームの中、そして外の世界を描き直す。



作品提供:Archivio Audiovisivo del Movimento Operaio e Democratico(AAMOD)、足立正生全映画上映実行委員会、Dichard Dindo、Idioms Film、Serge Le Péron、Monica Maurer、マーメイドフィルム、三井峰雄、Nadi Lekol El Nas、Jocelyne Saab、Subversive Film