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YIDFF 2005 インターナショナル・コンペティション
イラク ― ヤシの影で
ウェイン・コールズ=ジャネス 監督インタビュー

もうひとつのイラクへのまなざし


Q: この映画の制作にあたって、最初にどのような意図があったのでしょうか?

WCJ: 撮影を開始した当初、どのような映画になるかということは考えていませんでした。しかしその当時、多くの西洋諸国で伝えられていた中東のイメージといえば、「ジハード、ジハード!」と叫ぶ人々のイメージだけでした。そのような状況下において必要なことは、人々がまず互いを理解しあうことだと私は思いました。そこで実際にその場所に行き、彼らの状況を記録し、世界中の人々へ伝えることは私の使命だと考えたのです。私自身、実際戦争の中で育ったわけではありません。しかし、これまでに戦争が私たちにもたらした多くのことを見てきました。人々が異なる文化や状況を理解することの重要性、それを説いていくことが私のモチベーションとなっていると思います。

Q: 様々な意味でイラクからは遠い日本において、この映画が上映されることについてどう思いますか?

WCJ: とても素晴らしいことですし、光栄に思っています。現実には、ふたつの異なる形態の戦争があると私は考えています。まずひとつに、ヘリコプターやタンク、銃を用いた物質的な戦争があります。一方この作品において、メディアの戦争、情報戦争という形態の戦争があることが明らかにされていると思います。それは、他の文化や状況に対する私たちの認識や理解をコントロールしてしまうものなのです。今回、こうして私の映画が山形映画祭で上映されることによって、異なる文化や観念がまた違う文化へと抽出されて広まっていき、他者への理解へ繋がっていくと考えています。

Q: マスメディアに属さない、自分自身の立場についてどう考えたのでしょうか?

WCJ: 先ほど触れたように、戦争は異なる形態を持ちます。タンクを動かすために燃料が必要なように、人々を動かし操作するためには、メディアが必要になるのです。そして、このメディアの影響力の大きさをアメリカはベトナム戦争から学んだのです。リポーターを取り込むことで、CNNへいかなる情報が伝えられるのかということを、コントロールできるようになったのです。したがって、私の役割は何人の人が殺され、何台のタンクが破壊されたということをレポートするのではなく、実際現場でなにが起こっているのかということを記録することだと考えています。もちろんその記録は、程度の差こそあれ主観的なものです。しかし、ドキュメンタリーは純粋なものであるべきだと私は考えています。実際イラクの作品について、もっと感動的なものにすることで、より多くの人々が涙するようなものを作ることは可能でした。しかしそれは、もはや実際の状況を具現化したものではなく、一種のプロパガンダになってしまい、この作品の価値を落とすことになるのです。私の役割は文化や状況を仲介すること、世界の人々にそれらを伝える手助けをすることだと思っています。

Q: タイトル『ヤシの影で』とは何を意味しているのでしょうか?

WCJ: このタイトルには、異なる意味合いが込められています。中東においてヤシの木は食材として、日差しを避ける場所として、人々の生活に関わる重要なものです。同時に、彼らの生活は政治やメディアによって暗い影に覆われています。私たちには実態が見えてこない、見えるのはその影でしかありません。そして現在、イラクの人々は戦争の影響下で暮らしており、それは以前の暮らしの抜けがらのようになっているのです。

(採録・構成:橋浦太一)

インタビュアー:橋浦太一、奥山奏子/通訳:坂本亮子、橋浦太一
写真撮影:近藤陽子/ビデオ撮影:大木千恵子/ 2005-10-10