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YIDFF 2019 アジア千波万波
山の医療団
ジジ・ベラルディ 監督インタビュー

死ななかったことが信じられないぐらいの体験でした


Q: 僻地の紛争地域を移動する医療団の撮影は過酷だと思いますが、何が監督を突き動かしたのでしょうか?

GB: 2006年に彼らと出会い、その後、医療団の本部でボランティアをしました。彼らのジャングルでの活動を撮影したいと思い、同行を申し出たのです。ただでさえ危険な徒歩移動をしながら国境を越えている彼らが、外国人の自分といることでよりリスクを負うことをそのときは知りませんでした。5年後、2週間だけ同行できることになったものの、なるべく目立たないよう部屋の中にいろと言われました。でも、せっかくたどり着いた村で、じっとしていることはできません。外に出してほしいと要求し、同行期間を延長してもらいました。振り返ってみると、死ななかったことが信じられないぐらいの体験でした。病気や怪我も経験し、終わった後何カ月も病に伏していましたが、そこで大きなことを成し遂げた後の情念が生まれ、作品にしなければという思いが込みあげてきたのです。あまりにいい映像が撮れたので、予告編を編集し、長編を撮るための資金を集め、いろいろな放送局に見せ、世界中の放送局、サンダンスのようなところからも関心を示されました。彼らについての映像は過去にもありましたが、NGOの活動報告のようなものや、紛争に焦点をあてた似たようなものばかりだったので、彼らの日常生活に着目したものを見せるべきだ、という思いが制作に邁進させてくれました。

Q: 撮影後、自身に変化はありましたか?

GB: 私たちは甘やかされて育っているんだな、ということに気づかされました。前は好き嫌いがありましたが、なんでも食べられるようになりました。トイレットペーパーやシャワーなど、当たり前に使っているもののない生活をおくり、あらゆるものの見方や、人生で何が大事かという優先順位が変わり、衛生観も過敏だったのがなんでも来いというふうになりました。同時に、いわゆる物質的な文化に甘えている人たちに対しては、寛容でなくなってしまいました。

Q: 医療団の人たちが、とても魅力的でしたね。

GB: 中心人物のひとりのトレーナーは、カリスマ性があるだけでなく冗談も言います。子どもと遊ぶシーンのラフカットではみんなが笑い泣きするぐらいでした。また、私は彼らの言語がわからないまま撮影を始めましたが、彼ともうひとりのメンバーは英語ができ、コミュニケーションが取れたため、彼らは自然と作品の中心になりました。もうひとり、医療団の少女が視覚的にアピールしてくるものがあり、彼らと彼女を中心にした映画になりました。

Q: 今後作品にしたいテーマはありますか?

GB: この作品の資金集めに苦労したし、大変な経験をして完成させたのにいろんな映画祭に拒絶され、もう終わらせたいと思ったこともありました。どうにか再編集し、ヤマガタでは、本来持っていたドキュメンタリーへの情熱が再燃するのを感じていて、とても嬉しいです。次はどんな作品を作ろうか考えはじめるところだと思いますし、いくつか関心事はありますが、向こうから題材が飛び込んでくることが私の場合は多いのではないかと思います。また、社会問題についてのドキュメンタリーを作りたいと思う一方で、映画祭で見た作品の中には社会問題には直接関係ないけど感動的なものもあることに気づかされました。

(構成:猪谷美夏)

インタビュアー:田寺冴子、宮本愛里/通訳:藤岡朝子
写真撮影:徳永彩乃/ビデオ撮影:徳永彩乃/2019-10-16