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YIDFF 2019 アジア千波万波
ハルコ村
ヒンドゥ・ベンシュクロン 監督インタビュー

この村の記録を残したい


Q: 季節が移り変わっていく村のなかで、女性たちがたくましく生きる姿に感動しました。彼女たちの強さはどこからきているのでしょうか?

HB: まずクルド人女性であること。彼女たちは、厳しい状況をユーモアでのりきって、少しでも生活を楽しくしようとしています。政府からの手助けももちろんきませんし、夫が時々思い出したように送金してくることはあっても、基本的に自分でどうにかしていかなくちゃならない状況で、生きるために闘うことが、彼女たちを非常に強くしているのだと思います。

Q: 女性たちが、男性や夫の愚痴を言ってる場面がたくさんあるんですが、男性のサミさんが撮影するうえで、困難はありましたか?

HB: サミの家族、親族を撮っていて、対象がおばさんや従姉妹たちなので、大きな問題はありませんでした。撮影するうえで気をつけていたことは、起こっている事をのがさないということです。姉妹から情報を得るのですが、誰かが行くとか来るとか、特定の日にちがわかるわけではなく、そこに住んでいるわけではないので、そのへんはちょっと難しかったと思います。

Q: サミさんが村に戻ったのは、10年ぶりということですが、なぜ映画を撮ることになったのですか? また、撮影期間はどれくらいですか?

HB: 村に戻ったとき、彼はこの村が消えてしまう前に、撮らなくちゃいけないと、さしせまった必要性を感じました。撮影自体は2013年にはじまって、最初に行ったときはハルコ村に1カ月くらい滞在しましたが、その後は、イスタンブールでの移民の話の撮影と同時進行になっていました。その後一度カナダに戻ったりもあって、最後の撮影が終わったのが2016年です。撮影にはいつも、充分な時間をかけるよう配慮しています。

Q: 映画のなかの女性が、結婚を勧められ、自分の相手は自分で決めると言ってますが、昔のしきたりが変わって、女性の立場も自由になっているんでしょうか?

HB: 実際は、そんなに変わってはいません。伝統的なお見合い結婚というのが、まだ根強いのです。上の世代だけでなく、彼女の姉も妹も同じような心配をしているし、とても複雑な問題です。彼女は、イスタンブールで芸術を勉強し、教師という職も持っていて、自分の伴侶を自分で決めたいという夢ををしっかりもっていました。でも、村の圧力下にあって、姉妹がお見合いを設定した男性に、恋をしたかはわかりませんが、そんなに悪くないと思ったので、結婚を決めました。

 一般的に、古い世代にとっては、村に残ることが大事ですが、若い人たちは伝統的な結婚はするけれど、村に残りはしない、というあたりは変わってきていると思います。

 映像には残さなかったのですけれど、花占いをしていたおばさんが離婚するという、びっくりするようなこともありました。あの世代の女性には離婚はタブーなのですが、ヨーロッパにいって、意識の革命みたいなものが起こったのではないかと興味深く思いました。

 また、おじさんがヨーロッパにいたときは、いつも空虚さをかかえていたと話すシーンがあるけど、戻ってきたときも彼は村のなかで、自分の居場所をみつけることができなかったんです。わたしもサミも移住していますが、どこかに属しているという意識を持つことができるかどうかが、移住の大きな問題だということが、映画をつくっていてわかってきました。

(構成:桝谷頌子)

インタビュアー:永山桃、舛田暖奈/通訳:鈴木天乃
写真撮影:薛佩賢アニー/ビデオ撮影:菅原真由/2019-10-14