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今年の映画祭


 1989年の第1回の映画祭から1995年まで連続して参加して毎回増殖する映画やパフォーマンスを発表して初期の映画祭の顔であったフィリピンのキドラット・タヒミック監督、第1回から映画祭をずっと見守り続けてきた批評家の蓮實重彦氏、『ヴァンダの部屋』で衝撃を与えたポルトガルのペドロ・コスタ監督、『真昼の不思議な物体』で喝采を博したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、1993年の特集、「世界先住民映像祭」で作品が上映されたカナダのアラニス・オボンサウィン監督、以上5名の審査員を迎えて上映されるインターナショナル・コンペティションの作品群には、『エルサレム断章』のロン・ハヴィリオ監督、『さすらう者たちの地』のリティー・パニュ監督、『鉄西区』の王兵(ワン・ビン)監督と、それぞれ過去の映画祭で大賞を得た監督の新作が並ぶ。アジア千波万波でも、1995年に『ナヌムの家』で小川紳介賞を獲得し、今や韓国の代表的作家となったビョン・ヨンジュ監督と、2003年の沖縄特集のコーディネーターの仲里効氏の2名の審査員の参加を得て、韓国、中国その他のアジアからのユニークな作品が集まった。今年10回目となる映画祭は、今までの映画祭の歴史を色濃く反映しているようだ。

 特集の「交差する過去と現在――ドイツの場合」では、大戦から東西分断、再統一を経てきたドイツの過去と現在にドキュメンタリー作家たちがどのように向き合っているかが示される。ドイツの場合は、日本の場合と比較して様々な示唆を与えることだろう。「ニュー・ドックス・ジャパン」でも、日本の大戦の傷跡に直接関わる問題を扱った作品が上映される。また、ドキュメンタリーの歴史でともすれば見過ごされがちであった、日本のすぐれた科学映画を中心に、フランスのジャン・パンルヴェ作品、戦前のドイツのUFA作品を加えて、「ドラマティック・サイエンス! 〜やまがた科学劇場〜」が出現する。そして、山形を見つめ直す「やまがたと映画」では、塚本閤治作品をはじめほとんど上映の機会がなかった数々の山形にまつわる作品が姿を現すことだろう。

 その他、驚きの企画が目白押しの今年の映画祭! 世界の現実を反映し作家たち観客たちと歩んできた映画祭の過去を見直しながら、未来へ向けての楽しい祭りとなることが期待される。

矢野和之