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    Yuri--About Loving

    - ドイツ/2008/日本語/カラー/ビデオ/64分

    監督、編集:東美恵子
    撮影:東美恵子、スザンネ・クヴェスター
    整音:ゲハルド・アウワー、ベアトホルド・クルーカー
    製作指揮:ナタリー・ラムブスドルフ
    提供:国立ミュンヘンテレビ映画大学

    ユリと48歳年上の“おっちゃん”は出会ってしまった。四国汽船に乗って、幾度となく彼の住む島を訪れ、離れてはまた戻るユリ。一緒にいる時の満ち足りた感触、独り残されることの怖さが、潮のように満ちては引いて行く。この世には、2人だけしか存在しないかのように慈しむ時が流れ、ユリは結婚を望むのだが……。ユリの友人でもある監督は、2人の関係性の間を穏やかな瀬戸内海の光る波のように漂い、カメラを媒介にしてユリに語りかける。



    - 【監督のことば】 2002年の夏の終わり、ユリと私はヒッチハイクで辿り着いた瀬戸内海の小さな島で“おっちゃん”に出会う。それから間もなく彼らは惹かれ合い、結婚を約束。48歳の年齢差、国籍、家族の反対。ふりかかる現実と理想との葛藤は彼らをよりいっそう孤独なものとし、またその孤独が2人の愛情を増幅させる様を私は見ていた。2人のドキュメンタリーを撮ろうと思う、そう私がユリに打ち明けると、彼女はさらりとこう言った。私はそのために彼らの出会いに居合わせたのだと。

     撮影を始めて4年が経ったある日、カメラがまるで鏡のようだとユリが言いだした。レンズを通して自分が見えるのが苦しいと、彼女はぱたりと私との連絡を絶った。しかしそれからしばらくして、ユリは私を喫茶店に呼び出し、カメラの前でゆっくりとそして明快に語り始めた。それはまるでカメラとの対話、つまり映し出された自分との対話のようであった。

     ドキュメンタリーとは時に攻撃的であり、現実を破壊する力をも持ちうるが、時には鏡となり、自分を見つめる機会を与えてくれる。今回の山形での上映で、どのようにこの映画が鏡となり、観客がそこに何を見るのか私は楽しみである。


    - 東美恵子

    1977年、京都生まれ。金沢美術工芸大学工芸学部鋳金科を卒業した2000年より渡独。現在、国立ミュンヘンテレビ映画大学、ドキュメンタリー学科在学中。『ユリ』(2008)と、撮影を担当した『Tuesday』(2008)で Starterfilmpreis、DAADpreisを受賞。2010年に初の長編映画『AUGUST』(日独合作)を公開予定。