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[レバノン]

このささいな父の存在

This Little Father Obsession

- レバノン/2016/アラビア語、フランス語/カラー、モノクロ/Blu-ray/103分

監督、脚本:サリーム・ムラード
撮影:バシール・ハッジュ、ジャード・タンヌース、 サリーム・ムラード
編集:カリーン・ドゥーミート、サリーム・ムラード
録音:ラマ・サワーヤ
音楽:Sandmoon
ナレーション:カロール・アッブード、サリーム・ムラード
製作:ジャナ・ウェフべ
製作会社、提供:c.cam production

レバノン内戦を生き残った監督の祖父が建てた家が、取り壊されることになる。一人息子である監督はゲイで、ムラード家の血筋は彼で止まってしまう。そこで、縁が切れていた父の弟を訪ねるのだが……。家も家系も引き継げない監督が、自らの居場所を探すため、父を、家族を、伝統や宗教に縛られた家父長制を、耽美とユーモアで挑発するオートフィクション・ドキュメンタリー。



- 【監督のことば】祖父が最初に建てたわが家は1階しかなかった。もしかしたら世代を重ねるごとに、1階ずつ建て増ししていく計画だったのかもしれない。私が3階を造り、そして私の息子が4階を造る。100年後には行き場がなくなり困っているかもしれないが、論理的に考えれば、その頃には下の階は無人になっているはずだ。わがムラード家に、無限の成長という危険は存在しない。昔から子どもの数は多くなく、せいぜい一人か二人だ。とはいえ、私の場合はそう単純な話ではない。私はムラード家の最後の男子であり、同性愛者だ。一族の血が途絶えるかもしれないということに父が気づくと、そこにおばが口を出し、建物を売るよう父を説得した。そうすれば、二人の老後資金の足しにできるというわけだ。父も自分が生まれた家で死ぬ気はなかったので、その話に同意した。そして、10階建てのビル建設の話に乗った。

 自分の代で家系が途絶えるという責任を、私はどうやって背負っていけばいいのだろうか。その責任を疑問視し、限度を定めることはできるのだろうか。ましてや、個人の運命、あるいはひとり者として存在する権利を求めて、その責任を超越することは出来るのだろうか。


- サリーム・ムラード

ベイルートのセントジョセフ大学IESAV(パフォーミングアーツ・映像・映画研究機関)で学び、映像音響学で学士号、映画制作で修士号を取得。受賞歴のある『Letter to My Sister』(2008)、『髪を切るように』(2010、YIDFF 2011)などの短編ドキュメンタリーを監督。さらに中編映画の『+』(2010)、『Pouldreuzic』(2011)、『La Demolition』(2011)などを制作する。そして『X: La Conception』(2012)では、自身の個人的な日常生活をフィクションに仕立てた。現在、レバノンでドキュメンタリー映画制作を教えている。本作は初の長編映画であり、2016年ヴィジョン・デュ・レールでプレミア上映された後、数々の国際映画祭に出品され、2016年のカルタゴ映画週間で審査員特別賞を受賞した。