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あれから10年:今、佐藤真が拓く未来



日本のドキュメンタリー映画界を代表する映画監督・佐藤真が突然この世を去って、早くも10年。一作ずつ手法を変え、常に新たな映画表現を切り拓きつつ、著作ではドキュメンタリー映画の歴史・哲学を大いに語り、映画思想の最前線を走り続けた佐藤真。没後10年を迎え、その映画人生と本映画祭とが密接に絡んでいた事実が改めて明らかになってきた。また最近は、佐藤真を直接知らない若い世代の中に、彼の作品や著作を通して大きな影響を受け活動する人たちも次々と生まれている。本特集上映が、佐藤真の仕事をさらに新たな未来へと繋げていくきっかけになればと思う。

(秦岳志)


阿賀に生きる

Living on the River Agano

日本/1992/日本語/カラー/16mm/115分

監督:佐藤真 撮影:小林茂 
録音:
鈴木彰二 整音:久保田幸雄
録音協力:菊池信之 音楽:経麻朗
製作:阿賀に生きる製作委員会
提供:カサマフィルム 配給:太秦 海外配給:シグロ

新潟水俣病の舞台としても知られる阿賀野川のほとりに住む人々の生活の豊かさと悲劇を、監督をはじめとする7人のスタッフが現地に3年間、共に暮らしながら描き出す。川と共に生きてきた彼らの厳しくも温かい日常を静かに見つめ、社会的な問題意識からはみ出す人々の日常の愛おしい瞬間を、カメラと被写体との関係性も含め、まるごとフィルムに感光させた傑作。YIDFF '93優秀賞受賞



我が家の出産日記

Diary of Our Daughter's Birth

日本/1994/日本語/カラー/ Blu-ray(原版:SD)/45分

演出:佐藤真 共同演出:宮崎まさ夫
撮影:岩田まき子 編集:和田至亮
プロデューサー:斎藤友護(テレビ東京)、鎌倉悦男(国際放映)
制作、提供:国際放映

「どこにでもある普通の暮らしをテーマにしたい。そんな話をしたら我が家を撮るはめになった。軽い気持ちでテレビ局に企画を出したら通ってしまった。かくてこの日から8ミリビデオで家族日記をつけることにした――」。次女出産のため妻・丹路さんが入院。家に残された天真爛漫な二歳児・澪ちゃんと頼りないお父さん。そこから始まる抱腹絶倒、怒涛のような一週間。



-おてんとうさまがほしい

The Brightness of the Day

日本/1994/日本語/カラー/16mm/47分

撮影、照明:渡辺生
構成、編集:佐藤真
プロデューサー:貞末麻哉子
製作会社、配給:マザーバード

照明技師として映画界で活躍してきた渡辺生さん。そろそろ引退して穏やかな老後を、と思った矢先、妻のトミ子さんにアルツハイマーの症状が出始める。生さんは友人から16ミリキャメラを借り、トミ子さんへと向ける。あふれんばかりの光と妻への愛情を受けて感光したショットの数々を、佐藤真が構成・編集として見事に掬い上げる。「映画は編集室で生まれる」との佐藤の信念の根拠となった作品の一つ。



まひるのほし

Artists in Wonderland

日本/1998/日本語/カラー/16mm(原版:35mm)/93分

監督:佐藤真 撮影監督:田島征三
撮影:大津幸四郎 音楽:井上陽水
製作:山上徹二郎、庄幸司郎
製作会社、配給:シグロ

登場するのは7人のアーティスト。彼らは、知的障害者と呼ばれる人たちでもある。兵庫県西宮の武庫川すずかけ作業所、神奈川県平塚の工房絵(かい)、滋賀県信楽の信楽青年寮を舞台に、それぞれ独特のこだわりを生かして創作に取り組む彼らの活動を通し、芸術表現の根底に迫る。YIDFF '99で上映



SELF AND OTHERS


日本/2000/日本語/カラー/16mm/53分

監督:佐藤真 撮影:田村正毅
編集:宮城重夫 録音:菊池信之 音楽:経麻朗
ナレーション:西島秀俊 製作:堀越謙三
製作会社、配給:ユーロスペース

1983年、3冊の作品集を残し36歳で夭逝した写真家、牛腸ごちょう茂雄。記憶に深く食い込み、魂を揺さぶるような力を備える牛腸の写真。残された草稿や手紙に写真、そして肉声をコラージュし、亡くなった写真家の「不在」をテーマに、怖いほどに研ぎ澄まされた映画表現がスクリーン上で模索される。YIDFF 2001で上映



花子

Hanako

日本/2001/日本語/カラー/16mm(原版:35mm)/60分

監督:佐藤真  撮影:大津幸四郎
録音:弦巻裕 編集:秦岳志
製作補:小川真由 製作:山上徹二郎
製作会社、配給:シグロ

京都府の大山崎に暮らす花子は、知的障害者のためのデイケアに通う一方、夕食後には畳をキャンバスに、食べ物を絵の具のように並べるという日課を欠かさない。そして母はそれを「食べ物アート」と呼び、写真に撮り続ける。そんな家族と花子の、豊かで時にスリリングな日々を追うホームムービー・ドキュメンタリー。YIDFF 2001で上映



阿賀の記憶

Memories of Agano

日本/2004/日本語/カラー/16mm/55分

監督:佐藤真 撮影:小林茂
録音、音構成:菊池信之 編集:秦岳志
音楽:経麻朗 製作:矢田部吉彦
製作会社:カサマフィルム
配給:太秦

『阿賀に生きる』から10年。かつて映画に登場した人々や土地に再びカメラを向け、人々が残した痕跡に10年前の映画作りの記憶を重ねていく。そこには過去の思い出を宝物のように大切に抱きながら生きる老人たちがいた。人々と土地をめぐる記憶と痕跡に向き合い、過去から現在、そして未来へと続く時の流れを繊細かつ大胆に見つめた詩的ドキュメンタリー。YIDFF 20052009で上映



エドワード・サイード OUT OF PLACE

Out of Place: Memories of Edward Said

日本/2005/日本語、英語、アラビア語、ヘブライ語/カラー/DVCAM(原版:35mm)/137分

監督:佐藤真
撮影:大津幸四郎、栗原朗、佐藤真
編集:秦岳志 整音:弦巻裕
助監督:ナジーブ・エルカシュ、屋山久美子、石田優子
翻訳、監修:中野真紀子
プロダクション・マネージャー:佐々木正明
協力プロデューサー:ジャン・ユンカーマン
企画、製作:山上徹二郎
製作会社、配給:シグロ

文学者・活動家としてパレスチナ問題に積極的に関わり続けたエドワード・サイード。国籍や民族、宗教といったアイデンティティに固執するのではなく、パレスチナ人である自らの在り方を「流れ続けるひとすじの潮流」と位置づけ、和解と共生の道を訴え続けた。サイードの足跡を丁寧にたどりながら、現代の中東に生きる多様な人々の日常の中に彼の思想を新たに捉えなおそうとする、意欲的なロード・ムービー。YIDFF 2005特別招待作品



上映後トーク/ゲスト一覧

10月6日(金)『阿賀に生きる』
平岩史行(冥土のみやげ企画/水と土の芸術祭2018副実行委員長)
10月6日(金)『まひるのほし』、『花子』
和島香太郎(映画監督)
10月7日(土)『我が家の出産日記』、『おてんとうさまがほしい』
今野裕一郎(演出家・映像作家)
10月8日(日)『SELF AND OTHERS』、『阿賀の記憶』
小谷忠典(映画監督・武蔵野大学客員教授)
10月10日(火)『エドワード・サイード OUT OF PLACE』
小森はるか(映像作家)

 


関連イベント

[会場]KUGURU(とんがりビル1F)

ディスカッション 『阿賀に生きる』とヤマガタ

日時:10月7日(土)14:00−16:00

第1回映画祭では橋の下に寝泊まりし、世界の映画を浴びるように観た『阿賀に生きる』の若きスタッフたち。その後の第2回では編集途中のラッシュ上映が実現。そこでの喧々諤々の議論を経て再編集された完成版は、第3回映画祭で優秀賞を受賞した。奇跡的に残った当時のビデオ映像を交え、いきさつを知る関係者たちが映画祭の持つ可能性について語り合う。

登壇者: 
旗野秀人(『阿賀に生きる』仕掛け人)、小林茂(『阿賀に生きる』撮影)
桝谷秀一(YIDFF理事)、倉田剛(『山形映画祭を味わう』著者)

上映:
YIDFF '91『阿賀に生きる』ラッシュ上映後のディスカッション
日本/2017/日本語/カラー/デジタル/23分
撮影:桝谷秀一 構成、編集:川上拓也



ディスカッション 海外から見た佐藤真

日時:10月8日(日)14:00−16:00

日本のみならず世界で活躍した佐藤真。しかしその後、日本の多くのドキュメンタリー作家が海外展開に挑戦するも、思うような成果を残せていない。日本のドキュメンタリー映画は海外からどう見えているのか? マーク・ノーネス氏に独自の佐藤真論や日本のドキュメンタリー映画の潮流について、また秋山珠子氏に中国語圏との交流などについて聞く。

登壇者: 
マーク・ノーネス(ミシガン大学教授)、秋山珠子(立教大学講師)


ドキュメンタリー演劇 『エヴェレットゴーストラインズ Ver. B「顔」 山形特別版』(演出:村川拓也)

日時:10月8日(日)19:00
入場料:2,000円

京都造形大の佐藤ゼミ一期生で演出家の村川拓也による〈佐藤真の不在〉をめぐるドキュメンタリー演劇。2年前に京都で初演された本作品は、ゼミのOB・OGらが、佐藤の突然の死の受け止め方について対話する様をそのまま舞台に上げ、大きな話題を呼んだ。その山形特別バージョンを新たな出演者を交え上演する。



ディスカッション 佐藤真に出会う新世代

日時:10月9日(月・祝)14:00−16:00

佐藤真が亡くなって10年。最近になって、全く同時代的な接点のなかった若い世代から、佐藤に続く表現に挑戦する作り手が次々と出てきている。彼らは佐藤の何に興味を持ち、可能性を感じているのか。各自の活動紹介、佐藤作品との出会いや魅力などを語り合いながら、佐藤真が拓く未来の可能性を模索する。

登壇者: 
川崎那恵、小森はるか、和島香太郎、岡本和樹、我妻和樹、川上拓也、石田優子、小谷忠典、小林知華子、小田香、林健太
司会:秦岳志、清田麻衣子