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ミッドナイト・トラベラー

Midnight Traveler

- アメリカ、カタール、カナダ、イギリス/2019/ペルシャ語/カラー/DCP/87分

監督:ハサン・ファジリ
脚本、編集:エミリー・マハダヴィアン
撮影:ファティマ・フセイニ、ハサン・ファジリ、ナルギス・ファジリ、ザフラ・ファジリ
音楽:グレッチェン・ジュード
プロデューサー:エミリー・マハダヴィアン、スー・キム
配給:Doc & Film International

作品解説 アフガニスタンでタリバン指導者についての作品を作ったことで死刑宣告を受けた映画作家夫婦が、子どもたちとともに国を出、危険な密出入国を繰り返し、欧州へ逃れるまでの3年間にわたる旅の記録。家族がスマートフォンを駆使して撮影した日々の映像には、逃避行の不安と家族の親密さがリアルに描き出されている。作品を見る者は、未だ戦争の影響が残る不安定な社会から排斥され、寄る辺ない存在になっても続く一家の日常を、生々しく目撃することになる。(KH)



【監督のことば】私たちの置かれた状況を考えれば、プロ仕様のカメラを使うことはあり得なかった。手元には3台のスマートフォンしかなかったけれど、スマートフォンなら家族全員が簡単に使えるし、かさばることもない。またこれなら、すぐに撮影態勢に入ることもできる。

 祖国の地を追われた私たち一家は、外部からの力により、否応なしにあらゆる方向へと投げ出された。その途上で見舞われる脅威から家族を守るという重圧に、父親としての私は、いまや困憊し切っている。しかし、映画作家としての私から見れば、そうした放浪や厄介事は魅力的でもあり、それゆえ私たちは、家族全員がこの映画の被写体となったのだ。

 妻もまた映画作家であり、上の娘には、ささやかながらもいくつかの映画での演技経験がある。彼女たちも映画作りに加わり、私一人ではとうてい獲得しえなかった経験をそれぞれに持ち寄っている。

 とはいえ、この映画が作れたのは結局のところ、チームに加わってくれたその他の仲間たちの経験と懸命な働きぶりのおかげだろう。(編集とプロデュースを手掛けた)エミリーはこの旅が始まったときからの同志だし、顔を合わせて一緒に仕事をしたのはセルビアに着いてからのことだったが、彼女とはとても親しい間柄であるように私たちは感じていた。その編集を見るにつけ、いつも、彼女がどの映像を入れるかについて最良の選択をしていると感じられた。

 そして、スーを紹介してくれたのも彼女である。彼女がエミリーとともに映画のプロデューサーになることを快諾してくれたのは、私たちにとって幸福なことだった。私たちが最良の判断をすることができたのは、スーがこの企画に本職としての幅広い経験を持ち込んでくれたからにほかならない。

 この映画では、音や音楽がとりわけ重要な要素となっている。自分たちのスマートフォンでしか録音できなかったからというのがその理由だが、完成した映画を見ると、私にはまるで、この仕事に携わってきた人々が私たちと連れ立って旅をしてきたかのように感じられるのだ。


ハサン・ファジリ

アフガニスタン出身の映画作家。国内ではこれまで、演劇、ドキュメンタリー、短編映画などを手掛け、大衆向けのテレビシリーズも数本制作している。2011年にはブリティッシュ・カウンシルの選定により、シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭のドキュメンタリー映画制作講座に参加。自身の映画作品『Mr. Fazili's Wife』と『Life Again!』は、ともにアフガニスタンにおける女性や子ども、さらには障害者の権利をめぐる問題に果敢に挑戦し、数々の国際映画祭で賞を獲得している。また、2014年のベルリン国際映画祭でプレミア上映されたフェオ・アラダグ監督作品『In Between Worlds』でロケーション・マネジャーを、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭に出品された『Voice of a Nation: My Journey through Afghanistan』では撮影技師をそれぞれ務めた経験もある。国営テレビのために彼が制作したドキュメンタリー『Peace in Afghanistan』(2015)は、市民としての平和な生活を求めて武器を捨てたタリバンの司令官ムラー・トゥル・ジャンを描いているが、そのことで物議を醸し、本作の「旅」の直接的な原因となった。