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    -ゴジラの彼方にあるものは

     『ゴジラ』が日本を代表する映画の1本である事に異議を唱える人間はいないだろう。では、なぜ『ゴジラ』は今日まで語り継がれる作品たり得ているのだろうか? 特撮技術の素晴らしさを主張する意見も、ゴジラの造形の恐ろしさが理由だと言う意見もあるはずだ。しかし、それら特撮技術を支えた、人間を描いたストーリーラインにこそ『ゴジラ』が評価される真の理由があると考える。そんな『ゴジラ』を監督した人物こそが、本多猪四郎(ほんだ いしろう)である。

     本多は1911年に山形県鶴岡市朝日村で生まれ、小学3年生までを山形の地で暮らした。その事は、はたして彼の作風にどう影響し反映されたのだろうか。本特集では特撮映画以外の本多作品を中心に上映する事で、改めて本多猪四郎が撮ろうとした「人間のドラマ」とはどのようなものであったのかを検証したいと思う。怪獣たちの咆哮の彼方に響く人間賛歌が、ご覧いただく方に届いてほしいと願うばかりである。

    (斎藤健太)


    -日本産業地理大系第一篇 国立公園伊勢志摩

    Nissan Geographical Outline, v.1: Ise Shima National Park

    1949/日本語/モノクロ/ ビデオ(原版:35mm)/20分

    監督、脚本:本多猪四郎
    撮影:
    川村清衛、牛山邦一
    録音:小沼渡 音楽:原六朗
    照明:
    伊藤一男  解説:徳川夢声
    製作:東宝文化映画部
    提供:
    日映アーカイブ

    本多監督の事実上の監督第一作で、学校教材などに使用されたドキュメンタリー。三重県の観光地、伊勢志摩の地形や成り立ち、伊勢神宮の戦前戦後の推移、真珠の養殖と海女の生活などが、丁寧に紹介される秀作。水中で海女を撮影した場面は、日本初の本格的な水中撮影である。幻想的な映像でありながらも人間の営みがしっかりと描かれているあたりに、後の本多作品の片鱗をうかがわせる貴重な作品である。



    - アラン

    Man of Aran

    アメリカ/1934/英語/モノクロ/35mm/76分

    監督:ロバート・フラハティ
    脚本:ロバート・フラハティ、フランシス・フラハティ、ジョン・ゴールドマン
    撮影:ロバート・フラハティ、デイヴィッド・フラハティ、ジョン・テイラー
    編集:ジョン・ゴールドマン
    録音:H・ハンド 音楽:ジョン・グリーンウッド
    出演:コールマン・“タイガー”・キング、マギー・ディレイン、マイケル・ディレイン、パット・マリン
    製作:マイケル・バルコン 製作会社:ゲインズボロー・ピクチャーズ(イギリス・ゴーモン)
    提供:山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー

    「ドキュメンタリー映画の父」と称される、ロバート・フラハティ監督の作品。アイルランドのアラン諸島を舞台にした、自然と人間のありようを描いた珠玉の名作。本多猪四郎がいたく感銘を受け、その後『伊勢志摩』を撮影するきっかけになったとも言われている。改めて美しき映像をご覧いただくとともに、本多作品のルーツを確認していただきたい。



    - 夜間中学

    Night School

    1956/日本語/モノクロ/ ビデオ(原版:35mm)/44分

    監督:本多猪四郎
    脚本:水木洋子  原作:余寧金之助
    撮影:前田実  美術:加藤雅俊
    録音:藤好昌生、井上俊彦  音楽:加藤光男
    照明:伊藤一男  企画:渡辺俊平、内山憲尚
    出演:吉岡興成、安藤武志、高橋貞二、 小林桂樹、小暮実千代、坊屋三郎、 三木のり平
    製作、提供:日本大学藝術学部映画学科

    『指輪物語』『ナルニア国物語』の翻訳で知られる瀬田貞二が余寧金之助名義で書いた原作『郵便机』を映画化した作品。夜間中学に通う主人公・鮮太と日中に勉強している良平の、共有する机での手紙の交換をとおして、さまざまなドラマが展開してゆく。日本大学藝術学部製作のため、宇野重吉や小林佳樹など、当時を代表する名優たちが日藝卒業生として協力出演している。



    - 花嫁三重奏

    Song for a Bride

    1958/日本語/モノクロ/35mm/87分

    監督:本多猪四郎
    脚本:若尾徳平 撮影:小泉一 美術:北辰雄
    録音:保坂有明 音楽:佐藤勝 照明:岸田九一郎
    出演:柳家金語楼、草笛光子、根岸明美、団令子、 清川虹子、佐原健二、土屋嘉男
    製作会社、提供:東宝

    おだてられて区会議員に立候補しようとする主人公と、その娘たちのドタバタを描いたコメディ。スラップスティックな味わいの中に本多猪四郎らしい、市井の人間への愛が感じられる名作。主演は当時の売れっ子落語家、柳家金語楼。出演の小泉博は本多作品『モスラ』などでも好演。のちに『007』シリーズでボンドガールを演じる若林映子のデビュー作でもある。

     


    - 上役・下役・ご同役

    Seniors, Juniors, Co-Workers

    1959/日本語/モノクロ/35mm/89分

    監督:本多猪四郎
    脚本:沢村勉 原作:大和勇三
    撮影:小泉一 美術:村木与四郎
    録音:藤縄正一 音楽:広瀬健次郎 照明:猪原一郎
    出演:加東大介、久保明、久保賢、 水野久美、草笛光子、瀬木俊一、 久慈あさみ、坂本九
    製作会社、提供:東宝

    経営評論家、大和勇三のエッセイが原作のサラリーマン映画。『花嫁三重奏』と並び、ソフト化がされていない貴重な傑作。周平は、男やもめの真面目なサラリーマン。そんな周平に持ち上がった再婚話、ドライな甥とその学友の恋愛話が絡まりあい、さまざまなドラマが巻き起こる。草笛光子、水野久美ら名女優たちの若い才能がスクリーンいっぱいに弾ける。



    - フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ

    The War of the Gargantuas

    1966/日本語/カラー/35mm/88分

    監督:本多猪四郎
    脚本:馬淵薫、本多猪四郎
    特技監督:円谷英二
    撮影:小泉一 編集:藤井良平 美術:北猛夫
    録音:刀根紀雄 音楽:伊福部昭 照明:高島利雄
    出演:関田裕、中島春雄、水野久美、佐原健二、ラス・タンブリン
    製作会社、提供:東宝

    数ある本多の特撮映画中でも異色の作品。フランケンシュタインの細胞から生まれた兄弟怪獣、サンダとガイラ。生き別れた2匹は、抗えぬ運命の中で、生命を賭けた対決を余儀なくされる……。怪獣に明確なヒューマンドラマを与えた本作は、のちの怪獣映画にも多大な影響を与えた。怪獣デザインは青森県出身の成田享。ガイラ役は酒田市出身の中島春雄。東北の才能が生み出した怪作だ。