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[フィリピン]

愛しきトンド

Tondo, Beloved: To What Are the Poor Born?
Tundong Magiliw: Pasaan Isinisilang Siyang Mahirap?

- フィリピン/2012/フィリピン語/カラー/Blu-ray/76分

監督、撮影、編集、製作:ジュエル・マラナン
提供:ジュエル・マラナン、Cinema Is Incomplete
towhatarethepoorborn.wordpress.com

海にせり出した足場の上に板張りの小屋が連なり、人々がひしめき合って暮らすマニラ北西部のトンド地区。3人の子どもと暮らす母親は、現在4人目を身ごもっている。一間しかない家のなかで、兄弟は壁に貼られた海賊版DVDのカバーから物語を想像して遊び、板の合間から射し込む光は、母の手元を照らす。近隣の子どもたちの声、鶏や犬の鳴き声、港湾の地鳴りのような音が響く生活空間が、映画の時間となって流れ、五感が揺さぶられる。



【監督のことば】トンドはフィリピン文化・社会のなかで独特の位置を占めている。現存する最古の行政地区のひとつであると同時に、フィリピン独立革命の発祥地でもあり、国の歴史の潮流が日々の辛苦のなかに深く刻まれている。

 現在、マニラ北港(フィリピン最大の国内および国際港)を中心に抱えるトンドは地方から移住してくる数多くの農民たちにとっては、便利な足がかり、また、都会で最初の職を手にする場所になっている。彼らは、トンドの路上、海辺、そしてゴミ捨て場にひしめき合っている。

 『愛しきトンド』の中でのトンドは単に物語が生まれる場所ではなく、物語そのものを成している。その物語とは、我々がとっくに知ってはいるが、完全には理解していないもの――すなわち貧窮と富裕の間に潜む過酷で不変の明暗である。

 今回は最も小さな家々の最も些細な事柄のなかに、あるいは日常生活の最も平凡な時間のなかにそれが映し出される。そして、我々の記憶には染み込むが、作品の登場人物の記憶には残らない、緩慢で淡々とした時間とともに移ろっていく。そのため、すぐにノスタルジアを感じるかもしれないが、それが唯一の眼目というわけではない。物語はまた、現代の生活の詳細な断片の中で、常に交わり合い、そこには過去の植民地と未来の様式が刻印されているのだ。


- ジュエル・マラナン

フィリピン出身の独立系ドキュメンタリー映画監督。2008年、フィリピン大学映画インスティテュートの学生であったとき、ドキュメンタリーの製作に関わり始め、マニラ首都圏を取り巻く様々な社会問題に取り組む。長い年月をかけ、歴史が普通の生活を通して微々たる歩みを示すさまに強い関心を育んできた。これまで監督した2作品は、いずれもその延長上に作られている。卒業製作作品の『Garlic Peeler』(2008)は、ニンニクの皮むきを生業とする女性が、夫の睾丸の病気の治療のため、公共医療サービスを受けようと、方々を駆け回る姿を追っている。最新作となる本作では、マニラで最も古く、最も人口過密なスラムにおいて、生まれる前から人生の選択肢が決定づけられるという地政学を観察している。映画製作とは別に、2011年に立ち上げたシネマテークと映画の対話プロジェクトCinema Is Incompleteを運営。現在、映画の配給・製作会社をマニラで始動させている。