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    The Embrace of the River
    Los abrazos del rio

    - ベルギー、コロンビア/2010/スペイン語/カラー/Blu-ray(HD)/73分

    監督、撮影、脚本:ニコラス・リンコン・ギル
    編集:セドリック・ズーネン
    録音:ヴァンサン・ヌアイユ
    製作:マノン・クビア
    製作会社:VOA asbl voa.magusine.net
    配給:CBA

    コロンビア西部から、カリブ海に注ぐ全長1,540キロのマグダレナ川。川沿いの住民は、日々の糧と同時に水の事故をももたらす、川に宿る精霊モアンに畏敬の念を抱いて生きてきた。神秘的な霧の中、葉巻や蒸留酒をモアンに捧げ豊漁を祈願する人々。川の流れに乗って語られるモアンとの遭遇談。それらはやがて、虐殺によって解体された遺体の部位が流れてくるという数々の証言によって、コロンビアが抱える現実と結びつく。川を、生と死、人間と精霊の交差点として融合させ、息子や兄弟を亡くした女性たちの強い怒りと深い悲しみを静かに悼む。



    【監督のことば】コロンビアで最も有名な伝説のひとつに、精霊モアンがある。それは、アンデスのインディオ文化と大西洋岸のアフロアメリカン文化を結びつけ、国を南北に走る大マグダレナ川に関わりが深い。この伝説はコロンビア人の想像力の大きな要素だと考えられている。

     モアンの特徴と気質について多くのコロンビア人が、孤独なシャーマンのようだと評している。征服者が打ち立てた秩序から逃れようとしたピハオ・インディアンを表すとき、スペイン人はモアネスという語を用いた。しかしモアンは狡猾で、消え失せることはなかった。昔からの策略に長けた偉大な魔法使いであるモアンは、時の流れに抵抗するために魔法を使った。つまり、他の男たちの妻や恋人をかどわかすことで、モアンは子孫を絶やさないでいられたのである。

     マグダレナ川は、川そのものが物語である。その誕生、荒々しい流れ、そして海に到達する河口が、人類とは関係なく時を打ち立てる指標なのである。自然が自らの物語を語ることができるかのごとく、マグダレナ川は自らの言葉を持ち、我々人間に語りかける。マグダレナ川は再び同じ水で泳ぐことはできないのだと教えてくれる。この世の移り変わりの中で、我々は無力なだけでなく、それを止める術を何も持たないのだ。川は、人間が迷子になるような、世界を隠すほどの深さについても教えてくれる。木の幹も、石も、肉体も、我々は単なるオブジェクトなのだ。この川を前にちっぽけな存在の私たちは、人間の意志の限界というものを受け入れざるを得ない。しかし、この川を支配するのに適した方法がある。物語を作ればよいのだ。

     一方、マグダレナ川は政治的な暴力の最悪の形を見てきた川でもある。途切れることなくその深みに投げ捨てられる遺体は、時にはバラバラの部位となって、川の魔力を拭い去っていくのだ。

     モアンの進歩的解釈とマグダレナ川の流れを関係づけることで、モアン伝説が漁師たちの日常生活にいかりを下ろしていることがわかる。

     モアンはいずれ消えゆく運命にあるのだろうか。インディオ系住民の記憶とともにいなくなってしまうのか。マグダレナ川の魔法ですら、罰をも受けぬ蛮行の数々に覆い隠されてしまうのだろうか。暴力は全てを相殺できるのだろうか。思い出を創る物語さえも?


    - ニコラス・リンコン・ギル

    1973年、ボゴタ生まれ。コロンビア国立大学で経済学を専攻した後、南部に行き、カウカ先住民協議会(CRIC)のインディオ系住民と交流する。そこで出会ったドキュメンタリー映画制作者のマルタ・ロドリゲスに勧められ、映画制作の道へ。2003年にベルギーのINSASを修了。共和党のスペイン系住民を描いた『País』(2002)、若いモロッコ人移民を描いた『Azur』(2003)など、初期は亡命や移民をテーマにしている。近年は、コロンビアの地方部における伝統と暴力の関係性についての3部作、Campo hablado プロジェクトを進めており、2007年に『En lo escondido』を、2010年には本作を制作した。現在は最終作である『Noche herida』の準備に入っている。