english
特別招待作品
  • 牧野物語・峠
  • にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活
  • とべない沈黙
  • ニッポン劇場 ―海を方法とした映像を―!
  • ある機関助士
  • 海とお月さまたち
  • 映画は生きものの記録である 土本典昭の仕事
  • 黒木和雄、松川八洲雄、松村禎三 ………◎追悼上映


     アントニオーニだ! ベルイマンだ! フェリーニだ! などと叫んでいた私の学生時代、日本でも外国映画に負けない革新的な映画が登場した。それが、ストーリー主義に陥っていた日本映画の常識を破る『とべない沈黙』だった。当時ATG系の映画館で封切られたこの作品は、映画ファンを唸らせた。松川八洲雄の少年時代の体験をモチーフに黒木和雄が映画化したもので、脚本も演出も撮影も若い才能が結集しているように思えた。黒木監督との出会いは、ポーリエ企画を立ち上げて意気盛んな大石洋三が東京で成功した「予告編大会」を大阪でもやりたいというのでお手伝いした70年代半ば、ゲストとして『竜馬暗殺』の原田芳雄とともに来られた時だった。上映が終わってホテルの横のバーに入ったまではよかったが、請求を見てびっくり。大石さんも私も所持金なく、黒木監督が気前よく払ったので、さすが映画監督という印象だった。その後、京都の大雄寺で毎年開かれる山中忌で、加藤泰、奥田久司、宮川一夫、滝沢一ら大御所と同席させていただき、黒木監督とも親しくお話しできて非常に嬉しかった。松川八洲雄監督とはYIDFFの日本ドキュメンタリー映画の回顧プログラムを担当したお陰で、何回もフィルムをお借りし、原稿を頂戴し、大阪に来られた時に連絡をいただくなど、たいへん親切な方だった。黒木、松川両鬼才が去り、最近はアントニオーニ、ベルイマンが去るなど、青春時代に影響を受けた監督たちの死は悲しいが、彼らの作品を同時代に見ることができた幸せを噛みしめている今日この頃である。

    安井喜雄

     カタログの編集時に松村禎三氏の訃報に接しました。松村氏の残したすばらしい作品、数々の映画音楽に敬意を表し、心からご冥福をお祈り申し上げます。


    - 黒木和雄

    1930年、三重県松阪市生まれ。1954年より岩波映画製作所演出部で助監督を務め、1957年監督デビュー、『わが愛北海道』などを発表し、1962年にフリーに。ドキュメンタリーだけでなく劇映画も手がけ、1970年代のATGを代表する監督のひとりとなり、『キューバの恋人』(1969)、『竜馬暗殺』(1974)、『祭りの準備』(1975)などで高い評価を受ける。1990年『浪人街』を発表後、2000年に10年ぶりの新作『スリ』が絶賛を浴びる。『TOMORROW/明日』(1988)、『美しい夏キリシマ』(2003)に続く「戦争レクイエム三部作」の3作目『父と暮せば』は2004年に公開。毎日映画コンクール監督賞など数々の映画賞を受賞している。YIDFF 2001ではインターナショナル・コンペティションの審査員を務めた。『紙屋悦子の青春』(2006)を完成後、2006年4月12日に他界。


    とべない沈黙

    Silence Has No Wings

    - 日本/1966/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/100分/英語字幕版

    監督:黒木和雄
    脚本:松川八洲雄、岩佐寿弥、黒木和雄 撮影:鈴木達夫 
    音楽:松村禎三 美術:山下宏 
    製作:堀場伸世、三輪孝一 企画:小笠原基生
    出演:加賀まりこ、平中実、小沢昭一、戸浦六宏、山茶花究
    製作会社:日本映画新社 
    提供:国際交流基金

    - 北海道の昆虫狂の少年が北海道にいるはずのない蝶ナガサキアゲハを捕まえる。長崎では一匹のナガサキアゲハの幼虫が人にくっつき東に向かって出発する。萩、広島、京都、大阪、香港、横浜、東京へと、幼虫の旅に従って、様々な愛と人間模様が展開する。松川八洲雄の原案をもとに黒木和雄が初の長編劇映画として発表した従来の映画にはなかった新しい感覚の作品。松村禎三が音楽を担当。