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空低く 大地高し

Boundary
Fahtum Pandinsoong

- タイ、カンボジア、フランス/2013/タイ語、クメール語/カラー/Blu-ray/96分

監督、撮影、編集、製作:ノンタワット・ナムベンジャポン
助監督、撮影助手:ナンポタン・アジャワコム、カクロナ・チャン
撮影助手:アドゥンウィット・アカラウットメタコン
ポスプロ監修:リー・チャタメティクン
ポスプロ音声:ノパワット・リキットウォン
音響:ケートナン・ジャンティマトン
共同製作:ドンサロン・コウィットワニチャ、ダヴィ・チュウ
製作会社:モバイル・ラボ 
配給:ヴィッキー・フィルムズ

2010年、タイの若手映像作家ノンタワットは、カンボジア国境に接するシーサケート県出身の24歳の若者と出会う。タイ南部で兵士をしていたが除隊し、故郷に帰ろうとしている彼の経験を糸口に、タクシン派(農村中心の赤シャツ派)と反タクシン派(都市の黄シャツ派)が対立する政治闘争、カンボジアとの国境紛争、国境沿いの人々の暮らしが描かれる。鮮やかな色彩、緩やかな動きが印象的な独特の映像感覚を通して、新しい世代の政府への批判的なまなざしが浮かび上がる。



【監督のことば】すべては2010年に起こったタイの政治危機の最中に始まった。バンコクの人々は、赤いシャツを着た反政府派の主張についてさまざまな意見を述べていた。当時、地元の映画製作会社で働いていた私は、その職場でシーサケート県出身の若者オードと出会う。タイ東北部に位置するシーサケート県は、カンボジアと国境を接している。現在はカンボジア領内にあり、長らくタイとカンボジアの国境問題の象徴となってきたプレアヴィヒア寺院のすぐ近くだ。オードはクメール語が話せる。兵役中に南部に送られて分離独立派と戦い、そして2010年にバンコクに送られ、赤シャツ派の反政府運動を制圧する任務に就いた。除隊になると、オードは生まれ故郷に帰った。バンコク出身の私は、実際に紛争が起きている現場に暮らす人々を理解したいと思った。そこでオードを追って彼の故郷に向かい、この映画を撮ったのである。

 国境紛争が起こる前、人々は平和に暮らしていた。しかしタイの政治危機が起こると、国境紛争も再発する。首都バンコクでも、この問題で政府に抗議する人たちがいた。彼らはプレアヴィヒア寺院を自分たちの手に取り戻したかったのか、それともただ政治的な対抗勢力を攻撃したかっただけなのか、それは私にはわからない。

 境界線とは、ある場所を分断するために、人間が頭のなかで勝手に引いた線だ。境界線をめぐる論争は世界のいたるところに存在する。国境付近に住んでいる人たちは、国境線のどちら側にいようと、きっと同じような人たちだろう。同じ文化を持ち、同じ言葉を話し、同じ伝統を守っている。しかし、政治的な信条の違い、またはその他にもさまざまな理由があり、彼らを分断する境界線が引かれた。

 この映画は、「境界線」に対する私の思いを伝えている。領土を分ける境界線だけでなく、社会階層を分ける境界線、誕生と死を分ける境界線、そして幸せと悲しみを分ける境界線だ。


- ノンタワット・ナムベンジャポン

1983年5月2日、タイ・バンコク生まれ。ランシット大学芸術学部ビジュアルコミュニケーションデザイン科卒。彼の作品の主題は「空間」である。ドキュメンタリー第1作『Weirdrosopher World』(2005)は、タイの社会で自分の居場所を探すスケートボーダーたちの物語だ。この映画はタイ有数の映画スタジオGTHと、映画監督タンスカ・パンシッティヴォラクンが設立した、インディペンデント映画製作を支援する非営利組織タイインディの後援で製作、バンコク実験映画祭とバンコク世界映画祭で上映された。ドキュメンタリー第2作『Empire of Mind』(2009)では、幼い頃から自分を育ててくれた祖母との関係を描いている。