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インターナショナル・コンペティション



審査員
トム・アンダーセン かつて私たちが抱いた思い
ニコラス・エチェバリア 山の木霊
馮艶(フォン・イェン) 天津の一日
グスタボ・フォンタン 
牧野貴 2012 | cinéma concret

イメージの撹乱

 昨年9月に募集を始めて以降、4月の締切日までに、1,200本近くの作品がこのインターナショナル・コンペティション部門に寄せられた。初回の1989年から続いてきたこの部門で過去最多の本数であり、ご応募いただいたすべての製作者の皆様に心より感謝申し上げたい。今回も、上映作品の選定において一人のディレクターの裁量に任されるいわゆる「ディレクター・システム」を採らず、山形の一般市民を含む選考委員10人による慎重な審議を経て、今年の15本が選出された。残念ながら選に漏れた作品の中にも、この今の世界を思いもよらない角度から見せてくれる、新鮮な発見に満ちた作品が多数あり、選考は例年同様大いに紛糾した。

 そうした困難な選考過程の末に選び出された15本は、ひと際個性と創造性豊かな作品ばかりだ。キム・ロンジノットやマリア・アウグスタ・ラモス、ペドロ・コスタ、ヘルマン・クラルらヤマガタでもおなじみのベテラン作家から、独特の感性と美学で私たちを魅了する初登場の作家まで、新旧多彩な監督の作品が並んだ。主題やアプローチもさまざまだ。シリアや沖縄、ブラジルなど、刻々と政治・社会情勢が変化する地で、今まさにそこにあるものを、どうしても記録し、残し、人々の目に触れさせなければならないという強固な意志で捉え、編まれた作品。あるいは映像/Moving Imageのあり方を根本から探求し、見る側の意識や感覚を刺激する作品。女として生きること、生きざるを得ないこと、その闘い、苦悩と喜び、普遍的な日々の暮らしを改めてじっくりと提示する作品。そして、過去の歴史的事象や個人的な記憶についての、映画を通した再考――。

 いかなるテーマであれ表現であれ、すべての作品がこの「今」という時代を反映している。また、作品のそうした同時代性以上に問われるのは、見る側、受け手の「現在」の有り様だ。チリやペルー、東アジアの現代史や、2003年の多国籍軍によるイラク侵攻といったより近い歴史を扱った映画を、2015年の今、私たちはどのように見、語ることができるだろうか。ここで上映される全ての作品が、「今」を生きる私たちの日常への挑戦であり、変化を促すものばかりである。それはまた、現在と過去、作家と観客との間の、記憶をめぐる複雑な交渉のプロセスでもある。ヤマガタに再び足を運んでくださった方、初めて参加された方、すべての皆様とともに、「今」このときにしか生じないであろう、15本の希有な映画との出会いによる知覚、記憶、経験、想像力、イメージの「撹乱」を共有できれば、主催者として望外の喜びである。

 そして、上映を許可してくださった作家・配給会社の皆さん、5日間で全15作品を見て審査するという過酷な仕事を引き受けてくださった国際審査員の方々、上映と会場運営に関わるあらゆる部門で力を尽くしてくださった皆さん、このプログラムを支えてくださったすべての方々に、心よりの感謝を。ありがとうございました。

畑あゆみ(プログラム・コーディネーター)