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理性

Reason
Vivek

- インド/2018/英語、マラーティー語、ヒンディー語/カラー、モノクロ/DCP/218分

監督、編集:アナンド・パトワルダン
撮影:アナンド・パトワルダン、シマンティニ・ドゥル
アニメーション:ハノック・サミュエル、シュルジュナ・シュリダル、ウトカルシュ
提供:アナンド・パトワルダン

ヒンドゥー・ナショナリズムの拡大と宗教的な対立が深刻化する現代インドで、その状況に理性をもって抗する人間たちの姿を記録し、テレビ映像やネット動画なども活用して構成された全8章の大作。根強く残るカーストがもたらしてきた悲劇、不可触民や女性への差別を解消しようとする闘争は、テロや暗殺という手段で挫かれても失われず、詩や音楽の力に導かれて甦る。本作は、排他的なポピュリズムが招く危機的状況に警鐘を鳴らすストレートなメッセージを届けている。(TS)



【監督のことば】リテラシーの問題を克服すべく、私は祖国の人々に向け、ドキュメンタリー映画を通して語りかける活動を地道に続けてきた。しかし現在、私はもう「祖国の人々」がどこにいるのかわからない。私の国も、世界も、以前とは全く違う姿になってしまった。

 世界の至る所で、限りある天然資源をめぐる争いが激化し、過激な極右勢力の台頭を許してきた。平等主義の価値観が崩壊し、民主主義は危機に瀕している。そして、取りあえず安楽な生活ができている私たちは、その変化にほとんど気づかない。それは、社会に埋め込まれたメディア企業が、情報と娯楽の双方を私たちに提供しているからだ。

 『理性』は私たちを大宇宙「インド」へといざなう。世界最大の民主国家であるこの国では、殺人とマインドコントロールが横行し、苦労して手に入れた世俗主義と人道主義の価値観が危機に晒されている。2013年から17年にかけて、オートバイに乗った男たちが4人の有名なインド人理性主義者を射殺した。盲目的な信仰と戦ってきたナレンドラ・ダブホルカー博士は、朝の散歩中に殺害された。理性主義者のゴヴィンド・パンサレ、大学教授のM. M.カルブルギ、ジャーナリストのガウリ・ランケシュも殺害された。彼らはみな、非暴力の活動家で、上位カーストと右派ヒンドゥー至上主義に異議を唱えていた。

 今から遡ること半世紀前、マハトマ・ガンジーもまた、多数派の暴力によって殺された。アドルフ・ヒトラーを公然と崇拝する人々だ。以来、彼らのイデオロギーは地下に潜ったが、賛同者を増やす活動はずっと続けられた。そして現在、彼らの存在は、マイノリティや貧しい人々に対するヘイトクライムやリンチを免罪する勢力になっている。宗教と、男性中心主義的な「ナショナリズム」が大惨事をもたらし、グローバルなメディア企業もそれを黙認するか、あるいは賞賛している。

 今から振り返ると、40年以上に及ぶ私自身の仕事にも、危機の予兆は表れている。ただ生来の楽観主義が、それを完全に明言するのを妨げていただけだ。

 『理性』は、この惑星を脅かす近視眼的な独裁主義の台頭を検証する。また、8章からなるこの作品には、偉大な抵抗運動のなかで表れた英雄的な行為も登場する。世界はこの闘いを無視することはできない。


アナンド・パトワルダン

インドの社会と政治の根幹をなす多様な問題を題材に、40年以上にわたって政治ドキュメンタリーを撮り続ける。その作品の多くは、検閲によって上映や国営テレビ局での放送が禁止され、裁判を通じて上映禁止の撤廃を勝ち取ってきた。地域社会の融和のための活動、および社会の不正、持続不可能な開発、カースト制度、軍国主義、核ナショナリズムに抵抗する活動に従事。主な作品は、『Prisoners of Conscience』(1978)、『Bombay, Our City』(1985)、『In Memory of Friends』(1990)、『神の名のもとに』(1992、YIDFF '93市民賞)、『父、息子、聖なる戦い』(1995、YIDFF '95特別賞)、『ナルマダ・ダムの5年』(1996)、『戦争と平和』(2002、YIDFF 2003)、『Jai Bhim Comrade』(2012)など。YIDFF 2003でインターナショナル・コンペティション審査員を務めた。