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トランスニストラ

Transnistra

- スウェーデン、デンマーク、ベルギー/2019/ロシア語、ルーマニア語、ウクライナ語/カラー/DCP/96分

監督、編集:アンナ・イボーン
撮影:ヴィルジニー・スワダイ
音楽:ウォルター・ハス
音響:トマス・イエガー
プロデューサー:デヴィッド・ハーディス、 マイケル・クロトキエフスキー
配給:CAT&Docs

ウクライナとモルドバの境界にあって、1990年に独立を宣言した小国トランスニストリア。ひと夏の時を川辺や森、ビルの廃墟で過ごす17歳のタニアと、彼女をめぐる5人の少年たち。恋と友情の危ういバランスの上に映るつかの間の光の輝きを、16ミリカメラが記録する。夏から秋、そして冬へと移ろいゆく季節のなか、未来への不安と故郷の自然な心地よさの間で、若者たちの感情生活は揺れ動く。生きるためには、出稼ぎか、兵士になるか、さもなければ犯罪者になるしかない。過酷な現実を前に、無限とも見える青春の時間が空に吸い込まれていく。(AK)



【監督のことば】私の最新作となる本作は、ウクライナと国境を接するモルドバ北部に位置し、ソビエト連邦の崩壊を契機として1990年代初頭に誕生しつつも、いまだ国際的に認知されていない新国家、トランスニストリア(別名:沿ドニエストル)を舞台とする。周辺諸国がすでに背を向けたソビエト流の政治体制をいまなお堅持するこの国にあって、90年代生まれの世代は、そうした環境で育つことをどう感じているのだろうか。そんな疑問を持ちつつ当地を訪れてわかったのは、レーニン像と同じくらい年季の入った伝統も残っているとはいえ、トランスニストリアの若者たちにとって、いまや旧ソビエト国家よりも現代のロシアの方が、はるかに影響が大きいということだった。彼らは現代ロシアのポップミュージックを聴いているし、なかにはプーチンのファンさえ存在する。政治状況を全く気にかけない様子の者もいるにせよ、私が出会った人は、そのほとんどがトランスニストリア人であることを誇りに思っていた。

 最初の事前調査で現地に赴いたとき、私はある特別な若者たちと知り合った。男の子5人と女の子1人の友人グループの躍動的な変化にすっかり魅了された私は、彼らを映画の中心にしたいと考えた。彼らを通して、初恋を探し求める多感な時期を、その真っただ中にいる17歳のタニアとともに捉えたかったのだ。彼らはその時間のほとんどを戸外で過ごし、川辺で泳ぎ方を学ぼうとしたり、廃墟となった建物の壁をよじ登り、もはや窓が嵌められることなく開いたままの壁の穴に石を投げこんだりしている。ところがこの若者たちが今まさに動き回っているのは、語りが無効となり、中断され、延期されるような未完の建築の内部なのだ。矛盾するようだが、うっかり重傷を負いかねない、いかにも安心できないような場所で、友人たちはむしろ安心感を抱いている。こうした脈絡のなさ、気分次第で絶えず移ろう一人の若者の心に感化された私は、構成も順序も自由な語りの方へと向かっていった。夏の間、彼らは大人たちに邪魔されることなく気ままに過ごし、彼ら自身が大人となる時期も引き延ばされている。しかし、映画に深く入り込んで数ヶ月が経つにつれ、友人グループは次第に社会と直面するようになる。それぞれの道を進むなか、社会の規範にどれくらい適合するかを見る大人の世界が、彼らを評価してゆくのである。


アンナ・イボーン

1983年スウェーデン生まれ。自ら編集を手がけた長編デビュー作品『Pine Ridge』(2013)は、2013年のヴェネチア国際映画祭に公式出品され、翌年のイェーテボリ国際映画祭でノルディック・ドキュメンタリー最高賞を受賞。その他の作品に、フィクションを取り入れ2016年の釜山国際映画祭で初上映された『Epifania』(2016)、2017年にコペンハーゲン国際ドキュメンタリー映画祭のコンペティション部門、ヴィジョン・デュ・レエルのインターナショナル・コンペティション部門で上映された『Lida』(2017)などがある。最新作となる本作は、2019年のロッテルダム国際映画祭ビッグスクリーン・コンペティションに出品され、ワールドプレミアを飾っている。