English

インターナショナル・コンペティション

応募総数:129の国・地域より1,318作品

(英語題アルファベット順)

- 日泰食堂
Another Home
台湾、香港、フランス/2024/83分
監督:フランキー・シン Frankie Sin

香港の離島・長洲にある食堂を舞台に、時代のうねりの中にある人々の姿を描く。香港政府に民主化を要求するデモの熱気は、香港島から離れた周縁の島にも伝わり、食堂に集う常連客も無関心ではいられない。ただみつめるしかない店主と、デモに拍手する若者たち。やがて起こったパンデミックにより、食堂も大きな影響を受ける――。実直な語り口により故郷に暮らす市井の人々の心情を描き出した、監督の長編デビュー作。



- ダイレクト・アクション
Direct Action
ドイツ、フランス/2024/212分
監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル Guillaume Cailleau, Ben Russell

環境破壊に反対するフランスのアクティヴィストたちが物理的に占拠した空間。そのZADのコミュニティで営まれる自給自足生活の断片が、息の長いショットで撮影される。材木の切断、畑を耕したりパンを作る労働、さらに庭で子供の誕生日を祝い、大人がチェスを愉しむ様子などにもカメラが向けられていく。牧歌的にもみえるその営みが、しかし、彼らの直接的抗議行動でもあるのだ。農村での暮らしを紡ぐ人々の手は、水道の民営化に反対するデモ隊の手となって警官と衝突し、仲間たちを溝から引き上げ、助ける無数の手にも変様していく。



- 彷徨う者たち
L'Homme-Vertige: Tales of a City
フランス、グアドループ/2024/93分
監督:マロリー・エロワ・ペイズリー Malaury Eloi Paisley

カリブ海に浮かぶグアドループの都市ポワンタピートルでは再開発が進められているが、カメラを手に歩いてみると、全体が廃墟であるかのような街並みが現れる。薬物中毒のラッパー、肺ガンを患い療養する元キューバ革命の闘士、観察者としての寡黙な詩人、取り壊し予定の集合住宅に住む若い女性。土地に住む人々の視線や言葉から見えてくるのは、かつては植民地として、現在はフランスの海外県として故郷が簒奪されているという被支配の歴史と、しかしながらそんな境遇に対する抵抗の意志である。グアドループの出身である監督が、5年の歳月をかけて祖国での撮影を行った。



- Ich war, ich bin, ich werde sein!
I Was, I Am, and I Will Be!
日本/2025/100分
監督:板倉善之 Itakura Yoshiyuki

大阪の日雇労働者の街・釜ヶ崎の象徴だった「あいりん労働福祉センター」が2019年に封鎖される。大阪・関西万博開催を控え、ジェントリフィケーションが進められる中、映画はこの街の路上で生きてきた人物たちを追いかけていく。にわかに信じがたい素性を披瀝する者、社会構造の問題を訴える者、動物と生きる者、死を願う者。その一人一人の語りと向き合う長回しの映像は、画面に直接現れることのない、彼らの辿ってきた人生を想像させずにおかない。やがて監督たちは、この街で命を落としていった者らの声にも、耳を澄ませていく。
*題名のよみ「イッヒ・ヴァール、イッヒ・ビン、イッヒ・ヴェルデ・ザイン」。参考邦訳「わたしはかつて在り、いま在り、こんごも在る!」(野村修訳『ローザ・ルクセンブルク選集第4巻』現代思潮社、1962年より)



- 亡き両親への手紙
Letters to My Dead Parents
チリ/2025/106分
監督:イグナシオ・アグエロ Ignacio Agüero

自宅の窓から空を覗き、庭の植物や猫、小鳥を映しながら、映画作家は亡くなって久しい両親について語る。軍事政権下で作った最初の映画にエキストラ出演した母、チリで最も活発だった労働組合に所属していた父。映画は、かつての父の同僚の証言をはじめ、父が撮影したフィルム映像や映画作家の過去作からの引用、私的な家族の記録映像などを織り交ぜて、チリの人々が経験してきた過酷な歴史をプライベートな記憶へと合流させる。逸脱や中断を繰り返し、夢と現実を行き来する映画作家の語りは、死者と生者が出会う未完のアーカイブを形づくる。



- 愛しき人々
Malqueridas
チリ、ドイツ/2023/74分
監督:タナ・ヒルベルト Tana Gilbert

チリの刑務所に収監された女性たちが、撮影行為を禁じられた中で、携帯電話で密かに残した日常の光景。獄中出産した子供、離れて暮らす家族、恋人でもあり家族のようでもある収監仲間。これらのなにげない映像が消去され失われる危険に抗うため、監督はすべての映像を一度プリントアウトし再映像化する。複数の女性たちの証言と映像が混じり合い、粗い画素がインクに置き換えられたデジタルともアナログともつかない風合の画面が、女性であり、母であり、囚人でもある彼女たちの置かれた状況を親密に物語る。



- 公園
Park
台湾/2024/101分
監督:蘇育賢(スー・ユーシェン) So Yo-Hen

二人のインドネシア人詩人が台南公園で語り合う。卒業が近づく留学先の学校のこと、故郷に残した家族のこと、将来のこと。他愛もない話のうちに日が暮れた夜の公園で、彼らは同郷の移民たちについての詩を読み上げる。やがて、警備員の小屋を収録ブースに見立て、公園のところどころに置かれた石をスピーカーにして、彼らは架空のラジオ番組を始める。故郷を離れた者たちが故郷の言葉で語る声が、幻想的な舞台と化した夜の公園に響く。その声は誰に届くのか。排他性を強める世界で、公共の意味とは何かを問う。



- 終わりなき夜
Rising Up at Night
コンゴ民主共和国、ベルギー、ドイツ、ブルキナファソ、カタール/2024/96分
監督:ネルソン・マケンゴ Nelson Makengo

コンゴ、キンシャサ。洪水に襲われ、街の半分は水中に沈み、人々は家の中にまで入り込んだ水をかき分けながら暮らしている。丘の上から見渡す風景にも、首都にふさわしい明るさはない。街に光をもたらすはずの電気ケーブルが盗まれ、闇が街を覆ってしまったからだ。あとはもう神に祈りを捧げる他はない。闇の中、祈りの音楽が湧き上がり、人々は神を讃え、歌い踊り、陶酔に身を委ねる。しかし、新年の喜びは、感電死した男性の葬いの悲しみに変わる。夜明け、子どもたちはカヌーに乗せられ学校に向かう。水の上で、そっと微笑む子どもたち。



- 季節
The Seasons
ポルトガル、フランス、オーストリア、スペイン/2025/83分
監督:モーレン・ファゼンデイロ Maureen Fazendeiro

点在する先史時代に作られた巨石墓ドルメン、草花の生茂る野原と平原がひろがるポルトガルのアレンテージョ地方。大地を滑走するバンに誘われ、歴史と伝承を行き交う旅が始まる。第二次大戦期に巨石を発掘したドイツ人考古学者ライスナー夫妻の手紙とアレンテージョの言い伝えが多様な声で読み上げられ、現代の風景と溶け合い、時が円環する。山羊の出産、農業共同体とファシズム政権への抵抗歌、巨石の寓話、ウサギと戯れる子どもたち。美しく剥ぎ取られたコルク樫の樹皮は、自然のサイクルと共に生きてきた豊かな時間を象徴し、朗らかな音楽と共に余韻を残す。



- 標的までの時間
Time to the Target
ラトビア、チェコ、ウクライナ/2025/179分
監督:ヴィタリー・マンスキー Vitaly Mansky

ロシアの侵攻によってウクライナは激しい戦闘状態にあるが、前線より離れた地域はどのような影響を受けているだろうか。1999年の『青春クロニクル』をはじめ、『ワイルド・ワイルド・ビーチ』、『祖国か死か』、そして前作の『東部戦線』などでスクリーンを飾ってきた監督は、1年半に渡り故郷リヴィウの姿を記録してきた。本作には、ロシアから飛来するミサイルの脅威にさらされ、次第に疲弊していく住民たちの姿がくっきりと焼き付けられている。犠牲者に送る葬送の曲が時間の経過とともに次第に哀愁を帯びる。怒りのこもった大作だ。



- トレパネーション
TrepaNation
シリア、フランス、ドイツ/2025/222分
監督:アンマール・アルベイク Ammar al-Beik

内戦下のシリアからドイツへ逃れた映画作家が、難民認定されるまで暮らした〈難民キャンプ〉の記憶を紐解く。首都ベルリンから遠く離れた工業地帯に佇む殺風景な居住棟。2014年から約一年間過ごした建物は、もはや解体されその地にはない。かつて確実に存在した同胞たちとの日々は、カメラの記録に残るのみだ。自己と他者とを結びつけたレンズの穿孔は記憶を辿る動線となって作家を導き、故郷と失った家族への愛、キャンプの同胞たちや出会った人々に対する憧憬が圧倒的な熱量で綴られる。カタストロフィに抗い生をつなぐための映画による抵抗。



- ずっと一緒に
Welded Together
フランス、ベルギー、オランダ/2025/96分
監督:アナスタシア・ミロシュニチェンコ Anastasiya Miroshnichenko

ベラルーシに住むカーチャは6歳の時に父を亡くし、母がアルコール中毒になったため孤児となった。成長して溶接工として働くようになって母と再会し、もう一度家族として一緒に暮らすことを試みる。職人としての腕を磨き、男性ばかりの仕事場で一人の人間として認められる充実した日々。一方で母を支えながら物心つかない幼い妹の世話をする毎日は、苦労と失望の連続だった。母の酒癖は改善せず、影響を心配したカーチャは妹を保護施設に託して再び家を出る。つらく悲しい離別を経験したが、新たな生活に踏み出すことを決めたとき、姉妹としての強い絆が結ばれる。



- A Window of Memories
日本/2023/67分
監督:清原惟 Kiyohara Yui

監督自身の父方・母方それぞれの祖母に話を聞き、そこで一緒に作成したテキストを孫世代のふたりの女性が朗読する。仕事、結婚、家族の話など、生活に根ざした思い出が細かに語られる。彼女たちの人生の記憶を朗読によって構築し直すことにより、次第にふたりの祖母の話が交差しはじめ、私的で個人的な記憶と他者が語る経験との境界が曖昧になり、いつしか〈わたしたち〉の話になっていく。ふたりの祖母という異なる家族の記憶を掘り下げ、他者を通して共有する映画の試み。



- ガザにてハサンと
With Hasan in Gaza
パレスティナ、ドイツ、フランス、カタール/2025/106分
監督:カマール・アルジャアファリー Kamal Aljafari

ある日見つけたビデオカメラの古い録画テープ。再生すると、ガザを旅する自分自身の姿があった。映画作家は、テープの表面に記された〈ハサン、ガザ、2001〉を頼りに記憶を辿り、その旅が、若き日に理不尽な理由で刑務所に収監された折の同房者を探す旅だったことを思い出す。1989年の監房の記憶と2001年のガザの記憶。二度のインティファーダに連なる過去の記憶がガザのいまに接続され、終わることのない痛みを呼び覚ます。不条理を問い歴史の忘却に抗うための思索の旅。



※山形国際ドキュメンタリー映画祭2025インターナショナル・コンペティション部門では15作品を上映予定です。残りの1作品については後日発表いたします。