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カマグロガ

Camagroga

- スペイン/2020/カタルーニャ語/カラー/DCP/111分

監督、撮影:アルフォンソ・アマドル
脚本:アルフォンソ・アマドル、セルヒ・ディエス
編集:セルヒ・ディエス
録音:ホルヘ・サルバ、ホセ・セラドル
カラーコレクション:ルイス・アギラル
製作:アルフォンソ・アマドル、ハビエル・クレスポ
提供:Loverfilms、Dacsa Produccions

スペイン、灌漑農業の盛んなバレンシア地方の都市近郊で、古代エジプト時代から食用にされてきたタイガーナッツを代々生産してきた「カマグロガ」という屋号の農家。深いしわが刻まれた顔と分厚い手が目を引くアントニオと寡黙な娘のインマが、営々と農作業を続ける姿を1年間丁寧に追った記録。周辺には開発の波が押し寄せ後継者も減っているが、ビデオカメラで家業を撮影し小学校で発表するマルクと、その隣で農家の幸福感を語るインマの顔は、仕事への誇りに満ちている。時代の流れに抗いながら土を耕し続ける農家としての矜恃が、この土地の歴史とともに伝わってくる。(IS)



【監督のことば】5年前、バレンシア古来の灌漑農地「オルタ」に小作地を借りると決めたそのときは、映画から離れてしばし休みたいくらいに思っていた。ただ大地に触れ、植物が育つのを眺め、年巡る季節の様子を把握したい、その程度の考えだった。

 農業がしたい「素人」に自分の畑を一部貸していたアントニオ・ラモンと出会ったのも偶然だ。そうして私の地主となった彼は、その土地について、オルタの歴史について、彼自身の人生や仕事について話してくれた。私はその声を聴き、彼の手を、彼のしわを見つめたのだった。

 こうなるともう、休んでいるわけにはいかない。私は映画を作らねばならなかった。

 1年と半年の間、アントニオとその知識を受け継ぐ娘のインマの傍らで私は仕事に勤しんだ。来る日も来る日も、季節が巡っても。道具はカメラ1台のみで、なすべきこともただひとつ――ただただアントニオの頭部を、日焼けしたその顔を、その手を、その芸術的な鍬さばきを映像におさめたかったのだ。

 発見と理解はあとからついてきた。アントニオとインマを撮ることは終焉を迎えつつあるひとつの世界を撮ることであり、つまりそれは政治的な身振りである、ということに気づいたのだ。表向きはただ純粋に官能性を追求しているだけと言いながらも、私には結局のところ、この『カマグロガ』が政治的な作品であるかに思えるのである。

 私が心安らぐ時間を過ごしていたその期間、オルタはその完全なる姿が失われる一歩手前の脅威にさらされていた。地域保全をやや軽視するかのような公共事業で、歴史ある家屋がいくつも取り壊されたのだ。ともするとこれがきっかけで映画が企画されたかに思えるときもあるけれど、それはただ、そうした映像が私の意志と無関係にいつのまにか映画に紛れ込んだというだけのことだろう。私はただアントニオが撮りたかった。その笑顔を、刻まれたしわを、手を、芸術的な鍬さばきを。


- アルフォンソ・アマドル

スペイン、マドリード生まれ。映画監督、脚本家、劇作家。これまで短編第2作『9'8 m/s2』(1998)がカンヌ映画祭公式セレクション作品に選出されたほか、2016年にはスペイン作家出版人協会(SGAE)よりフリオ・アレハンドロ脚本賞を受賞。監督と脚本を務めた長編作品として『Enxaneta』(2011、フィクション)、『50 días de mayo (ensayo para una revolución)』(2012、スペインの「15M運動」を描いたドキュメンタリー)の2本があり、その他の短編作品に『El presente』(1995、ビジャ・デ・マドリード1995ルイス・ブニュエル賞)、『Todo lo que necesitas para hacer una película』(2002、アルカラ・デ・エナレス映画祭2002脚本賞)がある。