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理大囲城

Inside the Red Brick Wall

- 香港/2020/広東語/カラー/DCP/88分

監督:香港ドキュメンタリー映画工作者
日本語字幕版提供:cinema drifters

逃亡犯条例改正反対運動と香港当局との衝突が激化を極めた2019年11月。重装備の警察に包囲されたデモ隊は、理工大学キャンパス内で11日間に及ぶ籠城を余儀なくされた。安全上身元を明かすことのできない匿名の監督たちがその内部から撮影、編集した本作は、自発的な市民運動が粗暴で狡猾な権力機構によってねじ伏せられ、退路を絶たれた学生たちが日を追うごとに憔悴してゆく姿を克明に捉えている。防護マスクやモザイク処理によって顔の隠された若者たちの不安や恐怖がまざまざと映し出される。(ET)



【監督のことば】2019年6月、香港内で嫌疑をかけられた者を中国本土に引き渡して裁判にかけることを可能にする逃亡犯条例改正案、通称ELABの成立をもくろむ香港政府に対抗し、反ELAB運動が開始された。『理大囲城』はこの運動の決定的な節目のひとつとなるできごとにおける抗議者たちの体験を捉えている。

 「香港ドキュメンタリー映画工作者」は、2019年7月以降の各前線で起きていたことを記録したインディペンデント映画作家たちの集団だ。それぞれに現場でカメラを廻していることを知った私たちは、互いのフッテージを持ち寄り集合的なアーカイヴを形成することにした。撮影のため香港理工大学にいた私たちが目にしたのは、誰にとっても衝撃的な光景だった。ジャーナリストの多くは大学構内からの退避を決めたが、香港史上の重要な局面を目撃していると考えた私たちは、すぐさまここにとどまることを決めた。

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 包囲を抜け出したあとも、頭の中と魂はキャンパス内に囚われたままのように感じられた。そこで私たちは、この状況に対処するため、互いの記録した映像をひとつにまとめあげることにした。こうしてこの映画の制作が始まった。

 映画に登場する人たちの多くはいま、PTSDと格闘していたり、逮捕され司法手続きにかけられていたり、あるいは亡命のため香港を離れている。

 本作を選出してくれたYIDFFには、この場を借りて感謝したい。親中国メディアと2020年7月1日より施行された国家安全法の脅威にさらされるなか、祖国においてはもはや独立系映画館での上映すらかなわない。そんな私たちにとって、自分たちが目にしたものをこのような重要な映画祭で日本の観客のみなさんといまなお共有できることは、とても大きな意味をもつ。

 香港ドキュメンタリー映画工作者は、映画の力と自分たちの観客を信じている。私たちはこれからも、香港の民へ、世界へ、未来を担う世代へ向けて、香港のいまだ知られざる物語を届け続けるつもりである。