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審査員
志賀理江子


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●審査員のことば

 生活の中に染み込んだ、あらゆるデバイスで沢山の映像を見ることに日々の時間を費やしている。情報としての映像が、私の中に流れ続けることにも、いつしか慣れてしまった。もし、それと同じくらいの時間を、ただ空を見上げ、眺める時間にもできるのだとしたら、物心ついてからずっと感じ続けている息苦しさの本性に、気づけるかもしれない。

 一本の映画体験が、個人にとってどんな意味を持つかは、カメラに映された世界の外を、いかに想像するかにかかっていると思う。それは、いつか、空を眺めた時間とも、繫がっているはずだ。

 こんな危機感を持って、山形へ。

 映画によって世界を知れるだなんて、そんな期待を打ち砕かれに。

 命をかけて撮影された映画が、過酷な現実を超えていくのを予期して。

 そして、その光に照らされた私たちが、どんな姿をしているのかを見極めに。


志賀理江子

写真家。1980年、愛知県生まれ。2008年より宮城県在住。個展に、「螺旋海岸」(せんだいメディアテーク、2012年)、「カナリア」(Foam写真美術館、2013年)、「ブラインドデート」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2017年)、「ヒューマン・スプリング」(東京都写真美術館、2019年)、グループ展に「In the Wake」展(ボストン美術館、2015年)、「New Photography 2015」展(ニューヨーク近代美術館)など多数。10代の頃から写真を始め、「安全・清潔・便利な住環境に育った私とカメラ機器の親和性は、その暴力性において極めて高かった」と語っており、写真の時空が「死」よりも深い救いと興奮を自らに与えたという発言もある。2011年、東日本大震災での沿岸部における社会機能喪失や、厳格な自然法則の作動を目の当たりにした体験は、その後、戦後日本のデジャヴュのような「復興」に圧倒される経験に結びつくことで、人間精神の根源をさまざまな制作によって追及することへと写真家を向かわせた。過去と未来が断ち切られた「永遠の現在」と呼ばれる時空間を、写真のメディア性を思考するうえでの重要な鍵とみなし、その世界の可視化と感覚化を試み、思考する作品を制作し続けている。

*Tokyo Contemporary Art Awardによるテキストをもとに構成。