貸出作品リスト:YIDFF 2025
『終わりなき夜』『標的までの時間』『トレパネーション』
アジア千波万波:『パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?』『12月に編まれた夢のあつまり』
『サイクルマヘーシュ』『髪と紙と水と』『ハキシュカ』 『ルオルオの未来』
『スベルトノ・モーテ』『烤火房で見るいくつかの夢』
アジア千波万波(短編):『木々が揺れ、心騒ぐ』『炭鉱奇譚』『3350キロメートル』
『ダンシング・パレスティナ』『最後の訪問』『ノー・エクソシズム・フィルム』
『シエ...』『石を投げれば届く距離』『あなたがトラックなら私は鹿』
※監督の下段のデータは、製作国/製作年/使用言語/色/フィルム種別(35mmの場合のスクリーンサイズ)またはビデオ(ビデオフォーマット)/上映時間/字幕
YIDFF 2025 インターナショナル・コンペティション出品作品
ダイレクト・アクション
DIRECT ACTION (ロバート&フランシス・フラハティ賞(大賞))
監督:ギヨーム・カイヨー、ベン・ラッセル
ドイツ、フランス、韓国/2024/フランス語、英語、アラビア語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/212分/日本語・英語字幕あり
■環境破壊に反対するフランスのアクティヴィストたちが物理的に占拠した空間。そのZADのコミュニティで営まれる自給自足生活の断片が、息の長いショットで撮影される。材木の切断、畑を耕したりパンを作る労働、さらに庭で子どもの誕生日を祝い、大人がチェスを愉しむ様子などにもカメラが向けられていく。牧歌的にもみえるその営みが、しかし、彼らの直接的抗議行動でもあるのだ。農村での暮らしを紡ぐ人びとの手は、水道の民営化に反対するデモ隊の手となって警官と衝突し、仲間たちを溝から引き上げ、助ける無数の手にも変様していく。
ガザにてハサンと
With Hasan in Gaza (山形市長賞(最優秀賞))
監督:カマール・アルジャアファリー
パレスティナ、ドイツ、フランス、カタール/2025/アラビア語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/106分/日本語・英語字幕あり
■ある日見つけたビデオカメラ用の古い録画テープ。再生すると、ガザを旅する自分自身の姿があった。映画作家は、テープの表面に記された〈ハサン、ガザ、2001〉を頼りに記憶を辿り、その旅が、若き日に理不尽な理由で刑務所に収監された折の同房者を探す旅だったことを思い出す。1989年の監房の記憶と2001年のガザの記憶。二度のインティファーダに連なる過去の記憶がガザのいまに接続され、終わることのない痛みを呼び覚ます。不条理を問い歴史の忘却に抗うための思索の旅。
公園
Park (でん六賞(優秀賞))
監督:蘇育賢(スー・ユーシェン)
台湾/2024/インドネシア語、ジャワ語、北京語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/101分/日本語・英語字幕あり
■二人のインドネシア人詩人が台南公園で語り合う。卒業が近づく留学先の学校のこと、故郷に残した家族のこと、将来のこと。他愛もない話のうちに日が暮れた夜の公園で、彼らは同郷の移民たちについての詩を読み上げる。やがて、警備員の小屋を収録ブースに見立て、公園のところどころに置かれた石をスピーカーにして、彼らは架空のラジオ番組を始める。故郷を離れた者たちが故郷の言葉で語る声が、幻想的な舞台と化した夜の公園に響く。その声は誰に届くのか。排他性を強める世界で、公共の意味とは何かを問う。
愛しき人々
Malqueridas (フレックスインターナショナル賞(優秀賞))
監督:タナ・ヒルベルト
チリ、ドイツ/2023/スペイン語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/74分/日本語・英語字幕あり
■チリの刑務所に収監された女性たちが、撮影行為を禁じられた中で、携帯電話で密かに残した日常の光景。獄中出産した子供、離れて暮らす家族、恋人でもあり家族のようでもある収監仲間。これらのなにげない映像が消去され失われる危険に抗うため、監督はすべての映像を一度プリントアウトし再映像化する。複数の女性たちの証言と映像が混じり合い、粗い画素がインクに置き換えられたデジタルともアナログともつかない風合の画面が、女性であり、母であり、囚人でもある彼女たちの置かれた状況を親密に物語る。
終わりなき夜
Rising Up at Night
監督:ネルソン・マケンゴ
コンゴ民主共和国、ベルギー、ドイツ、ブルキナファソ、カタール/2024/リンガラ語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/96分/日本語・英語字幕あり
■コンゴ、キンシャサ。洪水に襲われ、街の半分は水中に沈み、人々は家の中にまで入り込んだ水をかき分けながら暮らしている。丘の上から見渡す風景にも、首都にふさわしい明るさはない。街に光をもたらすはずの電気ケーブルが盗まれ、闇が街を覆ってしまったからだ。あとはもう神に祈りを捧げる他はない。闇の中、祈りの音楽が湧き上がり、人々は神を讃え、歌い踊り、陶酔に身を委ねる。しかし、新年の喜びは、感電死した男性の葬いの悲しみに変わる。夜明け、子どもたちはカヌーに乗せられ学校に向かう。水の上で、そっと微笑む子どもたち。
標的までの時間
Time to the Target
監督:ヴィタリー・マンスキー
ラトビア、チェコ、ウクライナ/2025/ウクライナ語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/179分/日本語・英語字幕あり
■ロシアの侵攻によってウクライナは激しい戦闘状態にあるが、前線より離れた地域はどのような影響を受けているだろうか。1999年の『青春クロニクル』をはじめ、『ワイルド・ワイルド・ビーチ』、『祖国か死か』、そして前作の『東部戦線』などでスクリーンを飾ってきた監督は、1年半に渡り故郷リヴィウの姿を記録してきた。本作には、ロシアから飛来するミサイルの脅威にさらされ、次第に疲弊していく住民たちの姿がくっきりと焼き付けられている。犠牲者に送る葬送の曲が時間の経過とともに次第に哀愁を帯びる。怒りのこもった大作だ。
トレパネーション
TrepaNation
監督:アンマール・アルベイク
シリア、フランス、ドイツ/2025/アラビア語、ドイツ語、フランス語、ダーリ語、フィリピン語、チェコ語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/222分/日本語・英語字幕あり
■内戦下のシリアからドイツへ逃れた映画作家が、難民認定されるまで暮らした〈難民キャンプ〉の記憶を紐解く。首都ベルリンから遠く離れた工業地帯に佇む殺風景な居住棟。2014年から約一年間過ごした建物は、もはや解体されその地にはない。かつて確実に存在した同胞たちとの日々は、カメラの記録に残るのみだ。自己と他者とを結びつけたレンズの穿孔は記憶を辿る動線となって作家を導き、故郷と失った家族への愛、キャンプの同胞たちや出会った人々に対する憧憬が圧倒的な熱量で綴られる。カタストロフィに抗い生をつなぐための映画による抵抗。
YIDFF 2025 アジア千波万波出品作品
パラジャーノフ、ゆうべはどんな夢を見た?
What Did You Dream Last Night, Parajanov? (小川紳介賞)
監督:ファラズ・フェシャラキ
ドイツ/2024/ペルシャ語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/81分/日本語・英語字幕あり
■ベルリン在住の監督が、遠く離れたイスファハーンの両親や、ウィーンに暮らすいとことの他愛ないオンラインでの会話を、10年間にわたり撮影。通信環境ゆえか、ノイズにまみれた両親との会話では、世間話の合間に、父による詩の朗読や、母が投獄されていたときの記憶の語り、そして離れて暮らす子どもを思慕する言葉が挟まれる。一方で、監督を「パラジャーノフ」と呼ぶ同世代のいとことは、軽やかなユーモアに富んだ会話が重ねられる。監督にとってかけがえのないふたつの時間が、映画の中で交錯していく。
12月に編まれた夢のあつまり
Collective Dreams Stitched into December
監督:バッパディティヤ・サルカール
インド/2025/ヒンディー語、マールワーリー語、ベンガル語、英語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/60分/日本語・英語字幕あり
■監督や観客が意見を交わす小さな上映会。新聞配達員たちが早朝の街に賑わいを与え、キルト職人たちが布団を縫う。カースト制度の撤廃に尽力した政治家の功績と、カースト制度を正当化した「マヌ法典」の編者の像が裁判所に建てられたことについて話を聞いたかと思えば、虎の保護区のために強制移転を命じられた人々の抗議運動も見る。神話のような物語を継ぎ目にして編まれ、パッチワークのように都市ジャイプルのある12月が描き出されている。
サイクルマヘーシュ
CycleMahesh
監督:スヘル・バナルジー
インド/2024/オリヤー語、マラーティー語、ヒンディー語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/61分/日本語・英語字幕あり
■コロナ禍のロックダウン中に、自転車で出稼ぎ先から家までの2000キロ近くを7日間で帰った若き労働者マヘーシュ。そのことがニュースに取り上げられ、ひとたび有名になった彼の自転車旅が映画化されることになった。フィクションとノンフィクションを行き来しながら進んでいく撮影の旅は、追いたてられて国内避難民と化した人たちの姿と重なりながら、結局出稼ぎ労働から抜け出すことができない彼の行き詰まった生活へと立ち戻る。自由闊達なイメージと不思議なユーモア感覚でインドの現実を描き出す、重層的な奇想天外ロードムービー。
髪と紙と水と
Hair, Paper, Water
監督:チューン・ミン・クイ、ニコラ・グロー
ベルギー、フランス/2025/ルック語、ヴェトナム語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/70分/日本語・英語字幕あり
■ヴェトナムの人里離れた洞窟で生まれ育った少数民族ルック族の女性が、出産を終えた娘を手伝うためにサイゴンを訪れる。初めて触れる都会の喧騒の中、彼女は民族の言葉を幼い孫に伝えていく。髪を売って生計を立てた貧しい日々、虎や洪水に怯えた洞窟での暮らし、そして夢に現れた亡き母への想い─。失われゆくルック語で語られる記憶は、寓話のような不思議さをまとっている。祖母と孫が寄り添いながら奏でる言葉の響きは、フィルムの粒子と溶け合い、温かな余韻を残す。受け継がれる命と言葉が、柔らかな映像に刻まれていく。
ハキシュカ
Hakishka
監督:ナルゲス・ジュダキ、イマン・パクナハード
イラン/2024/アゼルバイジャン語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/49分/日本語・英語字幕あり
■イラン北西部のパーカンディ村で、毎年春のなかばに開催される伝統的な儀祭「ハキシュカ」。それは女性だけが村を出て丘のふもとまで行き、正体の分からないお墓の前で皆で踊るという不思議な催し。今年もその日が迫り、女性たちは輪になってお喋りをしながら祭りの準備。参加を許されない男性たちは、謎が多いこの儀祭についてあれやこれやと話し合う。そして当日、会場に集まった女性たちは力強く歌い踊り、老いも若きも心を開放して「ハキシュカ!」と叫ぶ。儀祭を取り巻く人々の賑々しく生命力に溢れた姿を、カメラはダイナミックに捉える。
ルオルオの未来
Luo Luo's Future
監督:洛洛(ルオルオ)
中国/2024/中国語(四川方言)/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/69分/日本語・英語字幕あり
■祖母のルオルオからカメラを預かって、7歳の孫娘マンマンが家の中を紹介してくれる。そこにあるのは一見、なんてことのないオモチャや人形、曾祖父や祖母が生活する日常の風景。カメラが家の中から出ることもない。しかし彼女の目を借りれば、そんな小さな家の中もまるで宝箱のようにきらめき、いきいきとして見えてくる。そして何よりカメラが彼女にとって最高のオモチャだ。カメラと撮影者の関係において、こんなに純粋なものを見ることもなかなかない。世界の楽しみ方、忘れていたその無限の可能性を教えてもらえる。
スベルトノ・モーテ
The Silent Path
監督:ヨンリ・レヴォルト
インドネシア/2024/インドネシア語、オランダ語/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/77分/日本語・英語字幕あり
■パプアで宣教師として活動し、エイズ予防の性教育にも尽力したオランダ人神父の半生を描く。監督による手記の朗読やインタヴューを通じて、激動の時代の歩みが丁寧に紐解かれていく。自由奔放で、ときに実験的なカメラワークに、豊富なアーカイヴ映像を巧みに織り交ぜながら、植民地主義への鋭い批判を展開する一方、監督が幼少期から親しんできた神父への深い愛情が滲み出る。全編を通して独特のユーモアと濃密な世界観が炸裂する。
烤火房(プラーハン)で見るいくつかの夢
SPI
監督:サーユン・シモン
台湾/2025/タイヤル語、北京語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/98分/日本語・英語字幕あり
■台湾の先住民タイヤル族の村に生まれた監督が、少数民族の映画作家として家族を見つめながら自身のルーツを探求する。亡きおじいちゃんと夢を通して対話をするかのように大切に話される慣れないタイヤル語も、おばあちゃんや親族たちが集まる烤火房(暖炉の部屋)での語らいも、16歳のいとこの妊娠と結婚が巻き起こす騒動も。監督が記録するすべては、おじいちゃんへの悼み、タイヤル族への思いへと繋がっていく。深められていく共同体の歴史に対する理解は、同時に、年長者と若い世代とが心を通わせることで継承される、文化のこれからでもある。
YIDFF 2025 アジア千波万波出品作品(短編)
【こちらの作品の貸出料は1作品20,000円、2作品30,000円です】
木々が揺れ、心騒ぐ
When the Trees Sway, the Heart Stirs (山形新聞・山形放送賞(奨励賞))
監督:イ・ジユン
韓国/2025/韓国語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/40分/日本語・英語字幕あり
■再開発に向けて住民が退去し始めたソウルの貞陵谷(チョンヌンゴク)。手塩にかけて育てた家庭菜園や、増築や修繕を繰り返した建物は、間もなく最初から無かったかのように街ごと消えてしまう。新しく建てられる豪華な住宅街には誰が住むのだろうか。監督は、暮らしの跡が刻まれた何気ない風景に視線を落としながら、そこでの暮らしを続ける人々や、かつて暮らしていた人々とすれ違う。それぞれの諦めや後悔、思い出の物語の中に入ってはささやかな心の動きに寄り添い、軽やかに駆け抜けていく。
炭鉱奇譚
The Tales of the Tale (東北電化工業賞(奨励賞))
監督:宋承穎(ソン・チョンイン)、胡清雅(フー・チンヤー)
台湾/2024/台湾語、北京語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/30分/日本語・英語字幕あり
■侯硐(ホウトン)は、かつて炭鉱で栄えた。日本統治時代から戦後しばらくまで石炭の採掘で発展したが、やがて廃れて閉鎖。施設は廃墟となり山の奥にひっそりと眠っている。当時、鉱夫として働いていた村の年長者たちには不思議な体験をしている者が多かった。それらを語る声を集めていくと、徐々に土地に染み付いた暗い歴史が立ち上がってくる。物語が生者と死者、もしくはさらにそれ以外のものとの、あわいに落ちる影に輪郭をつけ、この世に重なるいくつもの層を顕在化させる。語り継ぐことが、彼らがまだわれわれとともにいることを、忘れさせない。
3350キロメートル
3350 KM
監督:サラ・コンタル
シリア、フランス/2023/アラビア語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/13分/日本語・英語字幕あり
■あの曲の歌詞は何だっけ? と問いかける娘である監督と、別離の痛みをひたすらに吐露する父。不安定な接続の中でのビデオ通話は噛み合わず、フランスとシリア、3350km離れたふたりを繋ぐのはGoogleマップのみである。決して埋まることのない距離を少しでも縮めようとする画面越しの試みは、その距離の遠さをよりありありと突き付ける。娘は、その遠さの前に立ち尽くすように噛み合わない通話をじっと見つめる。その視線の先に、あの曲を歌ってくれた幼き日の父の姿を見出そうとしているのかもしれない。
ダンシング・パレスティナ
Dancing Palestine
監督:ラミース・アルマッカーウィー
パレスティナ、イギリス/2024/アラビア語、英語/カラー、モノクロ/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/37分/日本語・英語字幕あり
■「ダブケ」は、生活と労働から生まれた民族舞踊だ。住む土地を奪われ、世界中に離散し、アイデンティティの消滅の危機に瀕しているパレスティナの人々を結びつけるよりどころにもなっている。彼ら一人ひとりの身体に宿る音楽とステップは、パレスティナの歴史と文化を継承し、誰にも奪われず、誰も独占することはできない。ダブケの鼓動は、彼らを瓦礫と犠牲の物語から解放し、人生を愛し祝う。大地を蹴る力強いリズムと静かな語りが、「今もあり続ける」パレスティナの姿を示す。
最後の訪問
The Last Visit
監督:ケワリー・ワルッコーメーン
エストニア、タイ/2023/英語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/16分/日本語・英語字幕あり
■1冊の本のページがめくられてゆく。その1ページ1ページに、チャコールで描かれてゆくイメージは、作り手の手によって、息を吹き込まれ、動き出す。時に加速しながら、チャコールは時に色彩を帯びて、叔母との思い出や 彼女への思いを形どる。愛する人の姿が時のとまったものになってしまっても、私の時間は動き続ける。彼女との最後の会話を思い出し、立ち会えなかった最期の瞬間を想像してみる。あなたがここにいたなら、と。亡くなった叔母に捧げる、喪失の映像詩。
ノー・エクソシズム・フィルム
No Exorcism Film
監督:コムタック・ナパッタルーン
タイ/2024/英語、タイ語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/20分/日本語・英語字幕あり
■デジタルで記録されたタイの都市の崩れかけたイメージ。幸運のお守りに人生を救われた経験を力説する男性、建設されゆく高層ビル、嵐にさらされる木、市場や遊園地、などといった映像が、古いテレビ画面に映し出されたような質感で重ねられていく。悲観的な機械音声が囁くように繰り広げる詩的な会話では、先人への罪悪感や未来へのおそれが吐露されている。現在のタイに生きる人々の不安が非常に屈折した形で表されているようにも見え、あるいは電脳世界に接続されたロボットが悪夢を見るとしたら、このようなものかもしれないとも思う。
シエ...
SIE...
監督:ヨセフ・レヴィ
インドネシア/2024/シッカ語、インドネシア語/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/30分/日本語・英語字幕あり
■人々が去った、山あいの肥沃な谷。ノナはひとり、庭で作物を育て、動物や鶏たちを養い、盗賊から守り暮らしてきた。時がきて、彼女はこの土地を守る役割を弟に託し村へと降りた。ランプは灯し続けなければならない。伝えどおりにサイクルは引き継がれ巡り出す。ひと時、村で妻マリアを見舞い、山へ戻ると、ヤギが姿を消していた……。シエ、シエ……呼びかけに返る声はなく、音は森へと消えてゆく。養い守るものへの恵みが奪われる不条理。水音とともに何ものかが満ちるインドネシアの湿潤な森の中、守護者はただ祈りのように営みを続ける。
石を投げれば届く距離
A Stone's Throw
監督:ラザーン・アルサラーフ
パレスティナ、レバノン、カナダ/2024/アラビア語、英語/カラー/ビデオ(ブルーレイディスク)/40分/日本語・英語字幕あり
■石油産業――とそれが原因のひとつでもある気候変動――は、植民地主義と深く結びついている。パレスティナ人のアミーンが追われた故郷ハイファは、かつてパレスティナ人たちが抵抗運動の中で幾度も爆破したパイプラインの最終地点でもある。アミーンはレバノンへ逃れた後、ジルク島で石油産業の労働者として働いていた。ひとりの人間の語りが、テクノロジーや記憶、記録と交差しながら「石油」をめぐる支配と抵抗の歴史を問い直す。撮影が禁じられた島で暮らしたアミーンの声は、鮮やかにパレスティナを描き出していく。
あなたがトラックなら私は鹿
You Are the Truck and I Am the Deer
監督:マックス・ファーガソン
ベルギー、香港/2023/英語/カラー、モノクロ/ビデオ(ブルーレイディスク※50Hz)/5分/日本語・英語字幕あり
■牙を剝かれ、体が貪られる。内に宿る痛み、傷、叫び。他者から被る痛みは、心に深い負荷をおわせながら、傷口をえぐり、こじあけ、つきささる。ペーパーアニメーションによってコラージュされる肉体の断片は、再生されては破壊され、蝶は蛾となる。監督が編む詩の言葉は、叫びの渦を生み出し、うねりとなり勢いを増す。五感を覚醒する監督の身体表現に、繊細かつ独創的なサウンドスケープが呼応し、全力の体当たりで画面の中から我々に迫ってくる。
