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台湾国際ドキュメンタリー映画祭報告
(Part 2)

1998年9月19日〜26日

川口肇


小型座談會
質疑応答


 社会的・政治的な背景も手伝ってか、台湾では「ドキュメンタリーとは社会的な問題についてを扱うもの」という先入観が日本以上に強いようでした。それ以外の領域の可能性については、一般の観客を啓蒙する意図もあってかプログラムのセレクションに反映されていたようで、また多くの観客に受け入れられていたように感じました。私が出品した作品『位相』はそういう類の作品で、良くも悪くも「こういう“ドキュメンタリー”もありなのか」というのが多くの反応だったようでしたが、特に若い世代の観客、あるいはドキュメンタリーを勉強している若い映画祭スタッフたちからの好意的な声を聞けて嬉しく思いました。シリアスな現実の出来事(祖母の死)とコミカルな虚構のストーリー(空想上の人間関係の渦)を織り交ぜながら次第にその2つが混ざってゆくという構成について、なぜその様な構成をとったのか、テロップ文字の朗読を機械音声で作成したのはなぜか、等の質問が出ました。私の場合中国語―日本語の通訳の方についていただき、その際に会場にいる日本人参加者のために通訳の方の日本語訳も会場に流してもらうという心遣いをしていただき、とてもスムーズに質疑応答を行うことができました。私の作品に限らず、上映後の質疑応答では大抵観客からの質問が活発に出され、またその質問内容も非常に的確で、観客の意識の高さには同行した山形映画祭(YIDFF)スタッフの方々と共に驚かされました。


記録片的論壇
パネルディスカッション


 会期中の夜7〜9時、4日間にわたって開催されたパネルディスカッションは、「ドキュメンタリーのマーケット状況」「ドキュメンタリーの製作状況」「異文化間のコミュニケーションについて」「ドキュメンタリーの社会への役割」の異なるテーマで行われました。これは映画祭の実行委員会ではなくテレビ局が主催して行っていたようで、司会役の方もテレビ局の関係者と思われました。どうもドキュメンタリーの専門ではないらしく、映画祭プログラムコーディネーターの游恵貞氏がフォローした部分はあったものの、テーマによっては今ひとつピントが定まらない展開になりがちであり、この映画祭に参加して唯一、やや不満が残った部分でした。私は「ドキュメンタリーの製作状況」の部分でパネリストとして参加させていただきましたが、「私はいわゆる“ドキュメンタリー作家”ではないのですが…」と自己紹介したところ、それを司会の方に理解してもらえず、作品上映の時のようにドキュメンタリーの周辺領域について話をすることでようやく分かってもらえるような状況でした。このパネルディスカッションでは日本で大学等を卒業後に社会の中で個人レベルの映像制作を継続して行っていくことの困難さについての報告をしました。隣席のパネリストで日本での滞在経験もある中国のドキュメンタリー作家、馮艶氏(『長江の夢』、YIDFF '97「アジア千波万波」にて上映)には、流暢な日本語で通訳をしていただきました。YIDFFコーディネーターの藤岡朝子氏は「ドキュメンタリーのマーケット状況」でパネリストを務められ、多くの質問を受けていたことからも、ディスカッション参加者のYIDFFに対する強い関心を感じました。また台湾のドキュメンタリー作家・呉乙峰氏からは台湾のドキュメンタリーを取り巻く状況と未来への力強い展望が語られ、日本からの招待作家、土屋豊氏が最近活動を始めたという映像作品の自主流通 企画についての話をするなど、こちらは実りのある話になっていたように感じられました。「ドキュメンタリーの社会への役割」も聴衆として参加していたのですが、これは話の大半が台湾での問題に終始してしまったような印象がありました。


影后点評
交流・オフ・スクリーン


 メイン会場となった新光三越の会場フロアには喫茶スペースがあり、プログラムの合間の息抜き、簡単なインタビュー取材や打ち合わせ、また作家や観客、スタッフの交流の場として機能していました。スポンサーの1つである飲料メーカーの協力により、無料でコーヒー&ジュースが飲めるようになっていたものの、デパートのフロアということで、アルコール類は一切なしで夜9時には会場自体が閉まってしまうため、腰を落ち着けて、という感じではありませんでした。今回の映画祭の発起人の1人で、プログラム選考スタッフの張昌彦氏(日本に留学されていたことがあり、台湾でドキュメンタリーや演劇を教えている大学の先生)によると、現在の台湾では飲酒自体が不道徳的なものとして捉えられてしまう傾向があり、映画祭に直接「飲酒」を結びつけにくい、とのことでした。しかし当の張先生は学生とお酒を飲むのが大好きで、周囲から変わり者と見られているんだ、と笑って話してくれました。YIDFFにも来られており、「香味庵」(編集者注※)を身をもって体験されている先生はその重要性をきちんと理解されており、今回「台湾版香味庵」が実現できないことを残念に思われているようでした。そして我々山形組を連日、お気に入りの店に飲みに誘ってくれました。映画祭側がセッティングしたパーティは、急遽企画していただいたらしい中盤のスタッフ&招待客の交流パーティを含めて、4回。私の作品を気に入ってくれた台湾の作家が、彼自身の作品のビデオテープをプレゼントしてくれるという嬉しい出来事があったり、台湾映画祭の発起人の方々の熱のこもった話を直に聞けたり(それもカラオケボックスで!)、映画祭を支えるスタッフの方々の若さに驚きつつ、その真摯な姿勢(彼らもまたドキュメンタリーの制作を志す人達であったりもする)に胸を打たれたり、と台湾の方々と充実した交流を持つとともに、言葉も文化も違う人間がフランクに作品やいろいろなことについて話し合い、交流を図る場所の貴重さ、必要さを強く感じました。こういう部分が映画祭の真の原動力につながっていくのだと思います。

 


編集者注※:山形のメイン会場近くにある漬物屋わきの、倉を改造した和風レストラン。映画祭期間中は市民グループと映画祭ボランティアによって運営される「香味庵クラブ」に変身し、毎夜映画祭関係者で賑わう。


川口肇(かわぐち・はじめ)


1967年、東京生まれ。87年、九州芸術工科大学にて映像作品制作を始める。現在、東北芸術工科大学情報デザイン学科映像コース助手。YIDFF '97の「日本パノラマ」にて上映された ビデオ作品『〈位相〉』(1997)が、今回台湾ドキュメンタリー映画祭に招待される。他の作品に、『filmy』(1988)、『AQUARIUM』(1991)などがある。