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    La Mère

    - スイス、フランス、ロシア/2007/ロシア語/カラー/ ビデオ/80分

    監督、脚本、撮影、編集、録音:アントワーヌ・カタン、パヴェル・コストマロフ
    製作会社:レ・フィルム・オーション
    製作、配給:エレナ・ヒル

    ロシア雪原の中、9人の子どもを連れて暴力的な夫から逃げ出したリューバ。酪農家として働き、長女と一緒に子どもたちの世話をする日常は暴力と怒声、ウォッカと貧しさに溢れている。14歳で嫁がされた人生には「片時も幸せはなかった」と語るが、平凡で一途なその生き方と無条件の慈愛が、彼女の顔のアップひとつで捉えられている。共同監督の2人は解説を挿まずに、ただ一家に寄り添い、その人生を見つめる。



    【監督のことば】実際のところ、映画には2種類しかない。愛を語る映画と、憎しみを語る映画だ。そして『母』は、前者の映画になる。

     この母親の物語が特別なのは、「事実」のおかげだけではない。とはいえ、たしかに事実はすさまじい。彼女は14歳のときに、1本のウォッカと引き換えに、実の母親によってむりやり結婚させられた。その後は夫の暴力に耐えつづけ、ついに9人の子どもを連れて家を出る。それが、この映画の事実だ。しかし、苦難の連続にもかかわらず彼女には無限の愛があり、それが彼女を特別な存在にしている。私たちが描きたかったのもそのことだ。

     私たちの目的は、彼女の心の肖像画を描くこと。現実的で、それと同時に詩的な肖像画だ。驚異的なまでに強靱な女性で、人生の苦難や社会の貧しさにも負けず、ただ子どもの幸せのために強い気持ちで戦い続ける。私たちにとって、それはまたとない贈り物だった。この映画は、愛と希望のメッセージを多くの人に伝えるだろう。

     本作は観察映画であり、シネマ・ヴェリテの技法を忠実に用いている。私たちがもっとも大切にしたのは、無意識の被写体の心の動きを、そのままの形で捉えることだ。

     本作の語りでは、この生々しいリアリズムと、詩的な形式を組み合わせることを目指している。撮影時のショットの構成でも、編集でもそれを意識した。その努力が実を結び、ドキュメンタリーとフィクションの境界を超える映画が完成した。観客のみなさんにもその点を楽しんでもらえることを願っている。


    - (右から)

    アントワーヌ・カタン

    1975年、スイス生まれ。2001年にスイスのローザンヌ大学を卒業(歴史、映画、ロシア語専攻)。映画雑誌『Hors-Champ』の編集に携わった後、ロシアでセルゲイ・ロシニッツァ監督の助手として働く。カタンは過去6年間、スイスとロシアを行き来している。



    パヴェル・コストマロフ

    1975年、ロシア生まれ。2003年、全ロシア国立映画大学(VGIK)卒業。セルゲイ・ロシニッツァやアレクセイ・ウスチテル、アレクセイ・ポポグリエブスキーといった監督の多数の作品にカメラマンおよび撮影監督として携わる。モスクワとサンクトペテルブルクを行き来している。


    本作の制作にあたり、カタンとコストマロフは2005年のDiscovery Campus Masterclass に参加。2人は現在、ロシアのアレクセイ・ゲルマン監督に関する作品『It is Difficult to Be God』の制作に携わっている。