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YIDFFネットワーク企画上映



YIDFFネットワークは、1989年の第1回映画祭開催にあたり、小川紳介監督の呼びかけで集まった有志のボランティア・グループで、市民向けの金曜上映会の運営、映画祭の作品選考、出版物の発行などに携わってきた。さらに、毎回映画祭と協力しながら、独自の視点による企画上映を行っている。



魂のきせき

In Their Traces

日本/2025/日本語/カラー/DCP/97分

監督:小林茂
撮影:小田香
編集:秦岳志
録音:川上拓也
製作:長倉徳生、秦岳志
制作事務局:須藤伸彦
製作会社:カサマフィルム

「魂の殺人」ともいわれる「性虐待」。ひとりが背負うべき苦しみなのか。絶望の先にある希望に手をのばす。かすかな一筋の魂の光。

 友人が性虐待のフラッシュバックを起こしPTSDに苦しんでいる。長年それを見てきた監督が、性暴力サバイバーであるひとりの写真家と出会ったことから映画制作を決意する。8年という長期の制作期間。悔恨・殺意・うつ・不眠・解離・自傷・希死念慮などのPTSDを抱える彼らの内奥に潜む絶望 と希望とは何か。映画を作る意味を問いながら画面に登場する監督。苦しみのどん底から見上げる彼女たちの生きる姿に光を見ようとする。



【監督のことば】若い時代に、ともに水俣病支援者として活動してきた友人が40歳頃フラッシュバックを起こしました。小学校の頃に受けた性被害が原因でした。それから30年。私も苦しんできました。そして、性被害を明らかにし活動する写真家と出会い映画制作を決心しました。そこに、カウンセリングルームの主宰者が「私も当事者」と名乗りをあげました。

 「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」――ハンセン病の歌人、明石海人の言葉です。サバイバーたちもまた孤独にPTSDを抱えながら、かすかな声をあげてきたのです。

 サバイバーを友人にもつドキュメンタリー監督としては、映画で「性虐待」の実情を知ってもらいたいと思うようになりました。当事者ではない者がどうあがいても手に届かないところに真実が転がっています。しかし、彼らの言葉を聴き、そばに居ることはできます。困難が予想される映画制作でしたが、スタッフの励ましと多くの人びとの支えにより完成の日を迎えたことは感謝に堪えません。映画に登場してくれた方々には御礼の言葉もありません。

 映画制作の後半、戦争を背負って旧満洲から引き揚げてきた両親に育てられた私が、かつて体験したDVをテーマに重ねないわけにいかず、私自身も映画に登場することになりました。最近、多くの人びとが戦争と戦後の家庭内暴力との関係を研究し、性被害の背景には戦争があることが指摘されています。

 性被害に声をあげる世界的な「#MeToo」の動きや、各界の性虐待事件のように、声をあげる人が出てきています。『魂のきせき』が、言葉にしにくい「性暴力」という言葉をオープンにし、また、同時に、こころの葛藤を表現できたらと願っております。


- 小林茂

1954年新潟県生まれ。柳澤壽男監督に師事。新潟水俣病の舞台となった阿賀野川沿いで制作した『阿賀に生きる』(1992、佐藤真監督、YIDFF '93インターナショナル・コンペティション優秀賞)の撮影により日本映画撮影監督協会第1回JSC賞受賞。監督、撮影作品『わたしの季節』(2004、YIDFF 2005)で文化庁映画大賞、毎日映画コンクール記録文化映画賞などを受賞。監督作品として『こどものそら』(2000)、『ちょっと青空』(2001、YIDFF 2001)、『チョコラ!』(2008)、『風の波紋』(2015、YIDFF 2015)などがある。腎不全の病気を抱え長期間の取材を通し、人間の奥にある深層に触れようとする姿勢は一貫している。