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インターナショナル・コンペティション



審査員
リシャール・コパンス
エドウィン
アッザ・エル・ハサン
石井岳龍
クリスティーナ・ピッチーノ

作品解説:阿部宏慈(AK)、濱治佳(HH)、稲田隆紀(INT)、加藤初代(KH)、菊地翼(KT)、新谷和輝(NK)、田中晋平(TS)、吉田未和(YM)、結城秀勇(YH)



抵抗のかたち

我々のうちの誰もが監獄とは無縁である保証はない。今日においてはかつてないほどそうなのである。日々の我々の生活に対して、警察の厳戒な監視体制が敷かれている。街頭や道路において、外国人や若者に関して。
――「GIP[監獄情報グループ]の宣言書」(1971年2月8日)大西雅一郎訳、 『フーコー・コレクション4』ちくま学芸文庫、2006年所収

 フランスの思想家ミシェル・フーコーが所属していた活動家グループが監獄制度に対する抗議として発表した宣言からの抜粋である。フーコーは、研究主題として〈権力〉に注力すると同時に、アクティヴィストとしても活発に行動した。フーコー死後の90年代にも若者たちに熱心に読まれたその著作のうち理論ではなく実践の言葉が、いま心をよぎったのはなぜだろうか。かつて、世界の若者たちが〈反体制〉や〈革命〉を叫んでいたその時代から、私たちはとうに遠く離れてしまったのではなかったか。

 今年のインターナショナル・コンペティションに選出された映画に共通してみられるものは、〈抵抗〉だろう。『日泰食堂』の酒席で交わされる言葉、『Below the Clouds(英題)』で映し出される街の歴史、『ダイレクト・アクション』の農村コミュニティに流れる時間、『彷徨う者たち』で路上から放たれる詩、『Ich war, ich bin, ich werde sein!』の路地に息づく語り、『亡き両親への手紙』で家族と現代史をつなぐフィルム、『愛しき人々』が監獄から届ける愛、『公園』のラジオから聞こえる移民たちの声、『終わりなき夜』で停電の闇に輝く光、『季節』で地域に残る言い伝え、『標的ま での時間』がとらえる戦時下の日常、『トレパネーション』が辿る難民キャンプの記憶、『ずっと一緒に』に登場する女性の強い意思、『A Window of Memories』が試みる記憶の伝承、『ガザにてハサンと』が示す歴史の忘却に対する抵抗。

 他者に対する恐怖と排斥をあおる煽動者を進んで支持することの愉悦に浸っている間に、あるいは、それを見て見ぬふりをしているうちに、気づくと体制による権力が強大になり、自由に発言や行動がしにくい雰囲気が漂いはじめ、ついに自らが統制と弾圧の対象になるといった負の連鎖を人類が繰り返してきたことは、歴史が示している。現代がその負の空気をまといつつあることを、芸術に携わるものたちは感じているのではないだろうか。今年の作品群は、そのような時代の変化に対する違和感が〈抵抗〉というかたちを伴い、芸術として結実したといえる。

 フーコーは〈権力〉について考察を深めるなかで、アカデミズムにおける自らの〈権力〉を省み抗議活動に傾斜していったのではないだろうか。その思考をいま一度辿るような機会を与えてくれた作品と作家たちに対し敬意を表するとともに、映画祭を支えて下さるすべての皆さんに感謝の意を捧げます。

加藤初代(プログラム・コーディネーター)