審査員
石井岳龍
●審査員のことば
私はフィクション映画の創り手ですが、観客としての作品鑑賞においては、ドキュメンタリー、実験映画、アニメ、短編か長編か、メジャーかインディーズかなどのジャンルや形式は問いません。ただ、その作品に心を揺さぶられるかどうかが大切です。創作者が作品の本質に込めた〈心の震え〉に、私の心や全身が共鳴、共振するかどうか、それだけに深い興味があります。
極めて個人的な止むにやまれぬ視点から開始された創作であっても、命を宿した一生命体のように成長した創作物は、言葉や民族やジェンダーや年齢や趣味趣向を超えて、真にインターナショナルな表現として、観る者の心の奥、意識の奥に侵入し、それを共鳴、共振させ、それによって個でありながら個を超えた「第三の意識」、「直感やインスピレーション」、「新たな問い」を呼び起こし、立ちのぼらせてしまうことがあります。
この人類への宝もののような新しい「心」と「意識」の生成流動を促す、創作の深度や解像度や表現力こそが、新たな映画創作と映画鑑賞体験を産む、とても大切な核であり要素だと、私は思っています。
この映画鑑賞共振体験の場を創り、その後の対話体験の場の重要性までを、長年に渡って深く理解され、維持されて大切に守って育ててこられた、山形国際ドキュメンタリー映画祭という貴重な〈場〉に、今回、一助を担って参加させていただける幸運に心より感謝しております。
1957年生まれ。『狂い咲きサンダーロード』(1980)、『爆裂都市/BURST CITY』(1982)監督後に、ディレクターズ・カンパニーにて『逆噴射家族』(1984)を発表。10年の商業映画ブランク後に『エンジェル・ダスト』(1994)、『水の中の八月』(1995)、『五条霊戦記』(2000)、『ELECTRIC DRAGON 80000V』(2001)等の監督作を経て、2006年より神戸芸術工科大学教授(2023年退任)。2010年に石井聰亙から岳龍と改名し、『シャニダールの花』(2013)、『ソレダケ/that's it』(2015)、『蜜のあわれ』(2016)、『パンク侍、切られて候』(2018)などを監督。最新作は『箱男』(2024)。
ユメノ銀河
Labyrinth of Dreams- 日本/1997/日本語/モノクロ/35mm/90分
監督、脚本:石井聰亙
原作:夢野久作
撮影:笠松則通
美術:磯見俊裕
音楽:小野川浩幸
出演:小嶺麗奈、浅野忠信、京野ことみ、黒谷友香、真野きりな、松尾れい子
提供:Softgarage
地方の町でバスの車掌として働くトミ子の前に、新任運転手の新高が現れる。事故死した親友の車掌ツヤ子のバスに乗っていた運転手の名が新高だったことに気づいたトミ子は、戸惑いを隠せない。他の女性車掌の事故にも関係している新高への警戒心を強めながら、妖艶な佇まいの彼にトミ子はどうしようもなく惹かれてゆく……。 夢野久作の原作をもとに、夢幻的なモノクロームのフィルム撮影が、果てしない男女の運命を物語る。
